夕方、帝国ホテルのロビーで待ち合わせて、ホテル17階のバーラウンジで担当編集者と打ち合わせ。
隣の席に細川護煕元首相がいた。美しい女性ばかり3人に囲まれ、なにやらインタビューらしい。ずいぶん歳を取ったなあという印象。
打ち合わせが終わったら、もう外は暗かった。ここから歩いてほんの2分くらいの場所で、休刊する雑誌の慰労会。こういうパーティは寂しい。
ビルの地下二階で、めちゃくちゃ天井が低く、そこに行き着くまでは迷路のようだった。ここで地震や火災があったら絶対に死ぬな、と、出席者はみんな覚悟しただろう。
会う人々と風力発電の話をする。さすがにみんな1分も説明しないうちに話の内容を理解してくれる。
僕が説明する前から「ああ、風力発電は使い物にならないんですよね」と異口同音に答える。ただ、健康被害がこれだけ出ていることを知っている人はいなかった。
誰1人風力発電がエコだなどと思っていないことを確認でき、なんだか独り相撲をしているような気恥ずかしささえ覚えた。
しばらく過疎の村にいて、都会、というか、メディアの人たちの「常識」から離れてしまっていたのだと実感。やはり、ときどきは上京して、メディアの最前線と接触していないとダメだなあ。カエルやオバカ犬ばかり相手にしていては……。
一般的な知識人は、もうずっと前から風力発電の嘘には気づいている。でも、環境負荷がそれほどないなら、税金の無駄遣いはこれだけじゃないから……と、ドライに突き放して考えていたわけだ。
新しい要素は、去年くらいから出てきた、あまりにもひどい環境負荷と周辺住民が受けている健康被害の情報。これは僕もつい最近まで知らなかったのだし、まあ、仕方がない。これからどうやって知らせていくかが問題。
東北の山間部で稼働し始める風力発電プラント周辺で深刻な被害が出てきて、それが報告されるまでにもう少し時間がかかるだろう。それから半年、1年くらいすれば、世論もようやく少しは動くのだろうか。
その頃には、プラント建設は概ね終わっていて、風力発電を進めている大商社やローカル企業は、GEなどから買った巨大風車設備を大方売り払った後だから知らん顔。
もともと成り立たない事業だけに、世間を騙しきれなくなった、あるいは経済不況が深刻になってごまかしきれなくなった時点で風力発電会社は切り捨てられる。その頃、官僚と大商社は金を得た後だから、痛くもかゆくもない。天下り先で大金を得た官僚たちの大半は、優雅な老後生活を終え、歳とって死んでいる頃だろう。
川内村の大津辺・黒佛木山の風車は、ある程度放っておいても、稼働まではこぎ着けないのではないかと思う。しかし、周辺に建ちつつある小白井、檜山のは、このままだと稼働まで行きそうだ。
小白井のプラントは平伏沼のすぐ隣だから、稼働すればモリアオガエルがいなくなり、そのときになってから、何かおかしいぞと気づき、ようやくニュースになる……ということかな。
で、最後は世論と経済悪化に耐えきれず、操業停止。
小白井と檜山のは牧場跡地が中心らしいので、大規模伐採とかないだけマシかもしれない。しかし、風車搬入のために、町民が育ててきたブナ林が伐採されるなど、
すでにかなりの自然破壊がされてしまっている(⇒こちら参照)。
完成後、健康被害が出て、あるいは事業がまったく成り立たなくなり、止めざるをえなくなるかもしれない。そのときには撤去費用も出なくて、低周波被害を止めるために、羽根だけを外して地面に放置するということになるのではないだろうか。
その後は、それこそ「こんな愚かなことをした」という証拠として、反面教師的観光施設にでもすればいい。
大津邊・黒佛木山は現況が雑木林なので、伐採が始まったら、たとえ風車が建たなくても、もう取り返しがつかない。
村ではすでに僕は危険人物になっていて、犬の散歩の途中で挨拶を交わす人たちの中にも、露骨に表情をこわばらせる人が出てきた。
「余計なことをすると、進むものが進まなくなる」とも言われる。
自分たちや子孫の健康を犠牲にしてまで、小金をもらってどうするのか。
今まで、ある程度の利権話(工事談合とか……)にはなるべく接触せず、お互い平和に暮らすことを心がけていたけれど、今回のことはそういうのとは規模が違う。林が一つ二つ伐採されるというようなことでは済まない。
村の将来のためなら、いくらでも汚れ役を引き受けようと決めている。
以前、ゴルフ場建設や産廃誘致をめぐって村が二つに割れていがみ合ったことがあり、村長はその再現をいちばん恐れている。しかし、もう相当出遅れてしまった。CEFはすでに住民説明会を開き、有力者たちを接待し、おいしい話で引きつけてしまっているのだから。
ゴルフ場建設などと比べて、今回の話はあまりに負荷や危険が大きすぎる。その割に、村へ落ちる金はたかだか知れたもの。
村民は環境破壊には鈍感なので、まずは低周波被害のことを知ってもらうことが大切だと思っている。
日本各地で、風車病で仕事ができなくなり、一家離散し、耐えきれずに逃げ出そうにも、風車被害のために土地も売れなくなってしまったという悲劇が現実に起きている。そのことを知ってもらわないと、いいようにやられてしまう。
全体の構図を俯瞰すれば、いちばん悪いのは官僚。
経産省、総務省。それを暴走させている環境省。風車被害の実態をつかめていない厚労省にも責任がある。
税金目当てに群がってくる大商社と、風車で一山あてようとする風力発電業者。
しかし、よくここまで悪事を考えつき、実行に移せるものだ。弱者を騙し、国土を破壊して自分だけ金を得る。そんな人生を送って、何が楽しいのだろうか。なんのためにこの地球に生まれてきたのか。自分の人生をもっと大切に生きていこうと思わないのか。
こういう人たちは、若いとき何を考えて企業に就職したり、国家試験を受けたりしたのだろう。
夏にはまた大学生を前に話をするのだが、今から憂鬱だ。