10/06/22

檜山高原ウィンドファーム工事進む

村の入り口、割山トンネルのところに檜山高原ウィンドファーム用の部材が置かれている。
ここに一時保管して、夜の9時から朝にかけて時速10kmの低速で運び込んでいる。
これはブレード。小さく見えるが、長さは43mあると、ガードマンが言っていた。
相馬港に陸揚げしているという。ここまで運び込むために、県道小野富岡線の一部を拡幅工事した。
ただで道が広くなったといって喜んでいる軽率な人もいるが、道幅が広くなればそれだけ産廃やら巨大な迷惑施設部材なども運び込めるようになるわけで、いいことばかりではない。
檜山高原ウィンドファーム工事はすでに一基が建ったところで、残り13基(2000kw)がこれから続々と建つことになる。
計画自体は、すでにほぼ完成した滝根小白井ウィンドファーム(いわき市、田村市にまたがる山の稜線に2000kw×23基)よりも前からあった。環境アセスの公告日は平成13年7月17日となっている。9年も前のこと。
当時、僕は川内村などという地名すら知らなかった。越後の家をせっせと直していた頃だ。
ましてや、大型風力発電施設が出す低周波健康被害の情報もなかったし、2000kw以上の巨大ウィンドタービンを実際に見た人も、この国にはほとんどいなかったはずだ。
しかし、その頃すでに、しっかりとこういう金儲けプロジェクトが計画されていたのだ。

檜山高原の14基が本格稼働すると、風下になる民家の住民たちは否応なく健康被害に怯えながら過ごすことになる。そのエリアには友人も住んでいる。彼はこの村の自然を愛し、長い時間をかけて場所を探し、退職金をはたいて土地をかって家を建て、農業を始めた。
「おれんちは低周波被害の体験道場だよ」
と言っているが、場合によっては本当に住めなくなるかもしれない。
余生を気の遠くなるような交渉と闘争に費やすのか。全財産をはたいて購入した土地と家と田圃、畑を手放し、別の場所での再出発を選ぶのか。……どちらにしても、目眩がするようなストレスだ。

「建ってしまったら終わりです。建つ前に、なにがなんでも止めなければだめです! 間に合うなら、あらゆる努力をすべきです。ここのようになったら終わりです」
これは、南伊豆で実際に低周波被害にあっているかたから聞いた、生の、悲痛な叫びだ。
当初、環境のため、エネルギー政策のためといって風力発電に賛同し、受け入れを表明していた人たちも、建った後の地獄と、建てるまでの行政と事業者のでたらめぶりを体験し、みな、後悔している。
「騙された! これでは生き地獄ではないか!」と。

田舎の人間が、なぜ、異様なまでに「補助金」に固執するようになってしまったのか。その経緯を、あるかたが非常に分かりやすく説明していた。

農水省や都道府県が公共事業として強力に推し進めてきた圃場(ほじょう)整備というものがある。
農地の再区画整備、用排水路の整備、土層改良、農道整備などを進めることで、農業生産性を上げ、農村の生活水準も上げるという目的で行われるが、そのために多額の補助金が使われている。

例えば、1000万円かかる整備事業も、様々な補助金制度を利用することで、自己負担300万円くらいでできる。過疎地だとさらに優遇され、自己負担7万円程度でできる。その7万円も、超低金利融資制度が利用できるので、自己資金ゼロであっても1000万円規模の整備が可能になる。
かくして、「なんでこんな山奥にこんな立派な道路が?」とか「なんでこんな場所にまでU字溝が?」と首をかしげるような光景が日本津々浦々に出現することになった。

そのうちに、補助金制度のうま味を覚えてしまった人たちが、いろいろなズルをするようにもなった。
ビニールハウスを造るといって補助金を申請し、実際には規格よりずっと安価なビニールハウスを造り、残りの金で自宅を改造した……などという話が、田舎ではあたりまえのように交わされるようになる。

杉、松、檜が育たないような場所にせっせと植林をしたのも補助金制度のおかげだという。
「ここに檜の苗木を植えれば1反16万円の補助金をもらえる。檜の苗木は親戚からただでもらってきたし、植えるのは自分でやったから、補助金分は丸儲け。育とうが育つまいが関係ない。むしろ、若いうちに鹿に食われてダメになってくれたほうが、獣害対策補助金がもらえるからさらに儲かる」

補助金制度は地域全員参加が前提なので、一戸でも「うちは反対だ」などと言い出せば、その地域では生きていけなくなる。時間と共に、悪い言葉ではあるが、地域全体が潜在的共犯意識で結ばれていく……。
その意識から、「都会者には田舎の暮らしは分からない」「便利な生活をしているおまえたちに俺たちの苦労が分かるか」「自然保護だのなんだのときれいごとを並べるあんたらは、俺たちの生活のために何をしてくれるのか」……といった言葉を発するようになる。そうした言葉を真に受けて「本当に地域に溶け込む努力というのは、きれいごとではないんですよ」などとしたり顔で言う無責任な移住者も出てくる。

……かくして、日本を被っていた広大な広葉樹林は、あっという間に杉松檜の人工林に変わり、それが放置され、荒れ果てた死の森になってしまった。野生動物は食い物を奪われ里に下りてきて殺される。水源は減って、保水力も低下。簡単に土砂崩れを起こし、災害にも弱い土地になる。

……といった説明だったが、なるほどなあと……。


……などと書いていくと、地方の住民を敵視しているように思われそうだが、そういうことではない。
僕は心から、過疎地の生活が健全に生き残ることを考えている。そのためには、今までのような補助金頼りの発想では、もはや無理ですよ、と言いたいのだ。

金儲けはいかん、霞を食って生きろ、などと言っているわけではない。金を稼ぐのは当然だ。
しかし、過疎地には過疎地のビジネス戦略というものがある。
徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」(山に生えている木々の葉っぱを高級料亭に卸すという商売)は全国に知れ渡ったが、あんな風に、過疎地だからできるビジネスはいくらでもある。
埋葬ビジネス(墓地建設ではなく、樹木葬のような)、老後の楽しみビジネス(元気な熟年世代を呼び込む)、本物の健康食品ビジネス(大量生産ではなく、ブランド化してしっかり価値を築く)、木工や隙間技術を生かしたビジネス(プラスチック文明への反逆文化)、ソフトウェアビジネスの拠点(ビルの中では思いつかないことも自然の中でなら……)、大型リユース商品のストック基地(空き地や廃校などの利用)……。
そうしたものこそが、環境破壊を最小限に抑え、環境を生かした生き残りビジネスだと思っている。こうしたものを展開していくためにも、自然環境は最大の武器であり、ビジネス価値なのだ。
自然環境を壊して売り飛ばすのではなく、自然環境を生かして金が入ってくることをする。
農林業だってそうだ。長い自民党政権下の施策が間違っていたわけで、今から必死で建て直し、日本の風土に合ったものに修正していく必要がある。大平原で展開するアメリカ型の大量エネルギー投下型農業を、山地の多い日本にそのまま持ち込んでも無理がある。等身大の農林業をして、それでまともな生活ができるような農村社会にしていかないと、このままでは、世界的飢饉が来たときに日本はまっ先に干上がる。

しかし、風力発電施設については、こんな話を持ち出すまでのことでもない。
デメリットのほうがはるかに大きいことは、少し調べれば分かるのだから。
巨大なウィンドタービン群に囲まれ、毎日風向きを気にしながら山の上をため息混じりに見上げるような村に、誰が移住してくると言うのか。人は出ていくだけ。入ってこない。数十年後には、ブレードも外され、タワーだけになった廃風車が巨大な墓標として無人になった村を見下ろしているのではないだろうか。
補助金がとか、借地料だの固定資産税だのという一時的な金に惑わされることなく、実体を冷静に見抜けばいいだけのことだ。はなから無理なものは無理。時間が証明する。

6月14日、東京証券取引所が、日本風力開発の株式(コード : 2766、市場区分 : マザーズ)を、監理銘柄(確認中)に指定することにしたと発表した
今日(22日)は、株価が前日より1万円下落してストップ安。

無理なものは無理である、というあたりまえのことが、これからも少しずつ証明されていくだろうが、問題は、その間に、大変な苦しみを味わっている人たちが、ストレス漬けの中で孤独な戦いを続け、日本の山野がどんどん破壊されているということだ。


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