10/12/25

 想い出に浸る年末

Peter, Paul & Mary の「Jane Jane」を動画で見てしまったのが引き金で、昨日からはずっと感傷モードに入ってしまった。
人生の終わりが近いのかな。
ついでだから、オフコースのことをもう少し書いてみる。

1969年、母校聖光学院の学園祭に「凱旋」し、僕たちに感動を与えたオフコースは、その後、プロに進むかアマチュアのまま解散するかという分岐点に立たされていた。
東北大学で金属工学などを専攻していた小田和正と地主道夫の二人は、卒業と同時に上京し、早稲田の大学院で建築を専攻する。
鈴木康博は一旦内定していた就職先を断り、プロとしての音楽活動に専念することを決意。
この時点で、プロになる意識の強かった順に言うと、鈴木>小田>地主で、地主さんは最初からプロになる気はなかったようだ。
3人が録音した最初で最後のレコードが『群衆の中で』というシングルで、これはヤマハの第1回作曲コンクールでグランプリを受賞した一般応募曲。原曲は『Don't Pass Me By』という曲で、作曲者はベティ・ディーンとなっている。確か、はしだのりひことシューベルツが歌っている。
これに山上路夫の日本語詞をつけたのが『群衆の中で』で、東芝から発売された。

いい曲なのだが、アレンジがあまりにもやる気がないというかおざなりで残念。特に間奏のエレキギターはなんですかね。イントロもEmのアルペジオ2小節だけだし。

オフコースはしばらくライブでもこの曲を歌っていたが、自分たちでイントロと間奏をアレンジしてやっていた。
それでも、小田さんは他人が作ったお仕着せの曲をやるのに抵抗があったらしく、自分の音楽史からこの曲を抹殺しようとしているように思える。
僕ら(巨蕭)は、せっせとこの曲を練習し、人前で演奏するときも必ず歌った。
僕は相変わらず小田さんのパート担当だったので、高音部のコーラスで苦労した。

この頃、僕は小田さんに長い手紙を書き、しばらくして、ていねいな長い返事をもらった。
在校時、音楽のI先生のポップ音楽への無理解には手を焼いたことや、発声練習のことなど、便箋何枚にも渡って、ボールペンでいろいろ書いていただいた。

一方、鈴木さんはオフコース解散後もライブでこの曲を歌うことがあるらしい。↓
オフコースについては、いろいろな評価があると思うけれど、僕の中では、3人を加えて「小田和正バンド」化したときから、急速に興味を失っていった。
今振り返れば、結局、僕は、PPMのコピーバンドをやっていたときのオフコースがいちばん好きだったのだと分かる。
ビートルズやバカラックのメロディがいかに素晴らしいかを教えてくれたのもオフコースだった。
ビートルズ世代には信じられないかもしれないが、『Here There and Everywhere』や『Im My Life』といった曲を、僕はビートルズではなく、オフコースの演奏で初めて聴いた。

オフコースは選曲のセンスが抜群によかった。PPMのコピーでも、代表曲になっている『Puff』や『Where Have All The Floweres Gone』といったものではなく、『Jane Jane』、『A Soalin'』、『And When I Die』、『The Good Times We Had』といった深い曲を選んで演奏していた。
あとは、ニール・セダカの『Working On A Groovy Thing』(フィフスディメンションがやってヒットした。歌詞が放送禁止ぎりぎりじゃないかと思うほどきわどい)や、「ウェストサイド物語」の劇中曲『Somewhere』(作曲はバーンスタイン)なんていう曲もよくライブでやっていた。

PPMのナンバーに話を戻すと、オフコースがやっていたかどうかは覚えていないが『Hangman』という曲も、一時期コピーしようと思って挑戦したことがあった。
この曲の歌詞は太宰治の『走れメロス』に通じるものがある。というよりも、太宰はこの説話をモチーフにして『走れメロス』を書いたと言われている。
Hangman というのは絞首刑を執行する人のこと。今、絞首刑になろうとしている人が、執行人に向かって、
「ちょっと待ってください。ほら、父が馬に乗ってやって来るのが見えます。きっと無実を証明する証拠か、保釈金を持ってきてくれたに違いありません」
と訴えるのだが、やってきた父親は、
「いや、違うよ。俺はただおまえがぶら下がるのを見に来ただけさ」
と言う。
次に母親が、兄弟が、次々にやってくるのだけれど、みんな「おまえさんがぶら下がるのを見に来たんだよ」と答える。
最後に恋人(True love)がやってきて、初めて「あなたを助けに来た」と答えてくれる……というところで終わる。
希望の歌なのか、ラブソングなのか、現実の暗さを歌った歌なのか、よく分からない。

この曲は結局マスターするまでには至らなかった。

PPMがカバーしたのをオフコースがカバーして、それを僕らがさらにカバーすることで存在を知ったのがローラ・ニーロだった。
曲は『And When I Die』。
この曲のオリジナルがローラ・ニーロというシンガーソングライターだと知って、僕らはローラのアルバムを手分けして買って聴いた。
ローラ・ニーロはものすごくエキセントリックなアーティストで、夜中にじっと聴いていると、引き込まれると同時に、聴いた後にすごく疲れる。
当時、アメリカを中心に「女性シンガーソングライターブーム」という様相が若干あって、キャロル・キングやジョニ・ミッチェルが売れていた。ローラ・ニーロはこの二人と並び称されて「3大女性シンガーソングライター」として認識されていたのだが、ローラがいちばん才気溢れていた。
彼女はテンションコードが大好きで、特に2度のテンションを多用する。2度というのは、ドから数えたらレで、オクターブ上で使えば9thコードになる(例えば、C E G B D と重ねればC△9=メジャーナインスになる)のだが、彼女はいきなりルート音のすぐ上でテンションを入れる。つまり、C D G と弾いてしまう。
これに僕も影響を受けて、一時期、2度テンションを必要以上に使った曲作りをしていたことがある。

ローラ・ニーロはこの曲をまだ十代のときに作ったという。
1947年10月18日生まれで、1997年4月8日、50にもならずに亡くなったが、晩年も、この曲はライブでよく歌っていた。
ローラ・ニーロの訃報を聞いたときはショックだったが、僕はもう彼女より長生きしているのだなあと思うと、これまた軽くショックだ。

YouTubeを探していたら、なんと、ローラが1966年にデモレコーディングした『And When I Die』というのがあって、びっくり。
19歳のときのローラの演奏。すごいなあ、こういうものが自宅にいながらにしてすぐに聴けるなんて。

ローラ・ニーロは音楽的にはかなりとんがっている部類に入る。普遍的なメロディラインを書ける人なのだが、人のことは考えず、ひたすら自分の世界に浸りこむタイプ。キャラクターはまったく違うが、矢野顕子に通じるものもある。
矢野顕子なら、僕としてはピアノだけずっと聴いていたいのだが、彼女の中での音楽の価値や快感はそうではないらしい。ローラも同じで、ポピュラリティよりも、自分が快感を得られるかどうか、満足できるかどうかしか考えていないように思える。
結果として、ローラ・ニーロの音楽は、自分の精神世界と音が融合するかどうか、きわどいところを浮遊している。その危うさや切なさが、若いときの僕らにはたまらなくジ~ンときてしまったわけだ。

ところで、若いときにかぶれた音楽で、歳を取るにつれ聴かなくなり、聴いてもあまり感動しなくなってしまう音楽と、歳取ってもやっぱり心が震える音楽がある。
僕の場合、前者の典型はサイモン&ガーファンクル。なぜだろう、今はS&Gを聴いても感動しないのだ。
あまりにもしっかり作り込まれてしまった音楽だから、だろうか。
『BOOKENDS』のA面はすばらしい芸術だと思うが、歳を取って聴いて、心癒されるとか、震えるということがあんまりない。
音楽というのは、あまり緻密に、計算して作ってはいけないのだろう。
どこかぽ~んと抜けているほうが長くつきあえる。
そんなことも、この歳になると分かってくるのだなあ。


YouTubeで、PPMやローラ・ニーロの音源や映像をいっぱい見つけて、ついつい感傷に浸ってしまったクリスマスだったが、単に、懐かしいなあ、嬉しいなあと思えないのは、人間にとっての音楽の価値が、音楽としての絶対的な価値ではなく、こうして、若いとき、多感なときの体験と記憶に深く関わっていることを思い知らされるからだ。
僕の年代の人間にとっては、これから出てくる音楽よりも、自分の青春時代に聴いた音楽と再会する感動のほうが大きい。新しい音楽を探す気力、見つけ出す感性が薄れて、過去のエネルギーに頼って感動するしかなくなる。
それを僕は否定したいのだけれど、こうして否応なく、過去に引き込まれてしまう自分を知ると、がっくりくるのだ。

今の自分にしか分からない音楽の価値がある。あの頃より音楽的に成長したと自覚している部分もある。それを支えにしてこれからも音楽を作るつもりでいるので、あまりにも大きな「過去の吸引力」を体験することは、無力感に襲われることにもつながる。
……と、こんなことを阿武隈日記に書いても、どうしようもないのだけれど……。

ここ2日間の日記はずいぶん感傷的になってしまった。
2ちゃんねる的に謝っておくか。
スマソ。


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