2011/05/07

村内の土壌サンプル採取(6)


帰る前に、大塚家の田圃をチェックした。
水を入れたままだと愛ちゃんが言っていたので、カエルの卵……モリアオはまだ早いとしても、シュレが産んでいるかもしれないと思ったのだが、卵は見つからなかった。鳴き声も聞こえず、カエルの気配もない。

それにしても主が消えた大塚家を見るのは胸が痛む。
楽人や彩來ちゃんが遊んでいた遊具が、特に寂しさ、悔しさを募らせる。
この家で楽人や彩來ちゃんが遊ぶことはもうないかもしれない。
しょうかんさんとは電話で何度か話したが、岡山で暮らすことにしたとのこと。子供がいるから仕方がない、と。
岡山で暮らすとなれば、そうそう獏には来られなくなるだろう。
大塚愛伝説の地は、家族を作り、家を建て、さあこれから歴史を刻む……というところで理不尽にぶち切られてしまった。
家が倒れたくらいのことなら、彼らはすぐに立ち上がり、笑いながら生活を続ける。でも、土や水や空気を奪われたら、どうにもならない。

マサイさんは水のことをいちばん心配していた。沢水を飲んでいるのだから当然だ。
少しでもマシなほうに……と、今は飲み水だけは大塚家の井戸から汲んでいるというが、大塚家の井戸もせいぜい数メートルだから、安全だとは言いきれないだろう。
川内村は全村井戸 or 沢水だから、水の汚染はいちばんの問題だ。
線量計で簡単に計測できないだけに、これは緊急課題だ。

去年から水を張ったままの大塚家の水田


田圃の脇で1μSv/h前後ある


田圃側から家のほうを臨む


子供の遊具などが置き去りになっている


この小屋から、大塚愛伝説が始まった……それがこんな形で終わるとは……。
この土地での物語が理不尽に終わらせられたことについては、本人の言葉でもう一度聞いてみてほしい↓

広島の地で原発震災を語る


獏に来ても、もう愛ちゃんの笑顔も楽人の生意気ぶりにも彩來ちゃんの図太さにも会えないのかと思うと、本当に悔しい。
彼らの成長を見守るという楽しみを奪われてしまったことは、補償不能だ。
これについては、いくら言葉を尽くしても虚しくなるだけだから、やめておく。

降り続ける雨の中、家路についた。
帰りは399号を北上して、村の中心部を通って帰った。
モンペリはまだ閉まっていた。

399号線、手古岡付近。0.90μSv/h かなり高い


北上するにつれて線量は下がる


かわうちの湯駐車場には、「一時帰宅」用のバスが停まっていた


これに分譲して、10日から20km圏内の「一時帰宅」が認められるらしい


双葉広域消防は、浜側の基地が全滅したので、川内村に集結している


このへんは村の中でもいちばん汚染度合が低い安全地帯。
最近テレビによく出てくる川内村の映像(一時帰宅の「予行練習」風景など)は、ここで撮られている。

それにしても、うちがあと5km海側だったら、今頃、何も持ち出せず、お手上げ状態だったと思うと、恐ろしいことだ。
我々たみぐさは、無能な国家権力や巨大企業に翻弄されながら、必死に命と暮らしを守る行動を続けるだけ。

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