2011/12/05の2

 すぐそばにいたはじめちゃん(承前)

福島では、郡山市郊外にはじめちゃんがいっぱいいたが、どれもかなり痛んでいた。
それに比べて、ここのはじめちゃんはかなり状態がよい。
出来もなかなかだ。

吽像は鼻がでかい


阿像は上唇が欠けてしまっているが、表情はかなり分かる


なかなか愛嬌のある顔。鼻は蛇腹状?で面白い


阿像の尻尾


マンガチックにカパッと口をあけている


吽像は歯並びがきれい。鼻が獅子鼻で、阿像とはデザインが違う


吽像の尻尾。阿像より立派


吽像は角がある

残念ながら、年号は刻まれていないようだ。
境内にあるいちばん古い年号は、燈籠のひとつに刻まれている元文3年(1738)。1700年代前半に彫られた狛犬にしては、かなり進歩している。もう少し後ではないだろうか。
阿吽で完全にデザインを変えているところ(鼻や尻尾)、吽像に角があるところからして、彫った石工にはかなり狛犬の知識があったことが分かる。
江戸狛犬の流れではなく、畿内から伝わってきた情報が元になっている。日光に毎年幣帛(へいはく)を運ぶ例幣使制度が始まったのは正保3年(1646年)だそうだ。
例幣使街道沿いのこの地には、江戸をスルーして、畿内の情報が直接、かつ断片的に伝わってきたのかもしれない。
はじめちゃんは、都市部にはあまり残っていない。都市化とともに廃棄されたとも考えられるが、もしかすると郊外や街道沿いに多く残っているのかもしれない。
Wikiを読むと、日光例幣使は、往路は東海道・江戸を経由せず、中山道〜倉賀野宿〜例幣使街道という内陸経由で日光に向かい、帰路はに日光街道で南下し江戸を経由して東海道で帰京するのが慣習だったという。
今まで考えたこともなかったが、京都から狛犬情報が伝わっていったルートのひとつかもしれない。
群馬県高崎市倉賀野町が中山道から例幣使街道への分岐点。そこから先は、

倉賀野宿(群馬県高崎市)
玉村宿(群馬県佐波郡玉村町)
五料(ごりょう)宿・五料関(群馬県佐波郡玉村町)
柴宿(群馬県伊勢崎市)
境宿(群馬県伊勢崎市)
木崎宿(群馬県太田市)
太田宿(群馬県太田市)
八木宿(栃木県足利市)
梁田宿(栃木県足利市)
天明宿(栃木県佐野市)
犬伏宿(栃木県佐野市)
富田宿(栃木県栃木市)
栃木宿(栃木県栃木市)
宿合戦場(かっせんば)宿(栃木県栃木市)
金崎宿(栃木県栃木市)
楡木宿(栃木県鹿沼市)
奈佐原宿(栃木県鹿沼市)
鹿沼宿(栃木県鹿沼市)
文挟(ふばさみ)宿(栃木県日光市)
板橋宿(栃木県日光市)
今市宿(栃木県日光市)

……と続く。
もしかして、群馬、栃木の狛犬を細かく調べていくと、江戸よりも京都の影響が見られるかもしれない。
この狛犬も、吽像に角があることに注目したい。はじめちゃんで角があるものはそう多くはない。
はじめちゃんは、無名の村石工たちが「狛犬というものがあるらしい」という伝聞だけで彫った素朴な狛犬と想像されるが、東北、例えば郡山市に残っているはじめちゃんなどは、ほとんど「犬」としか思えないような素朴すぎるものが多い。
狛犬は本来、獅子・狛犬という別々の生き物であって、向かって右が獅子で口を開き、左が狛犬で角があって口を閉じている、という情報は、宮中の狛犬様式から来ている。その情報が、このはじめちゃんにはしっかり反映されているという点がとても重要だ。
尻尾や鼻のデザインを変えているのも、獅子と狛犬という別々の生き物を彫り分けようとした結果で、この石工は狛犬についての情報を相当しっかり受け取っていたことになる。

日光の狛犬と言えば、東照宮奥の院の狛犬(国重要文化財)が有名で、寛永18年10月から19年の4月にかけて奉納されたと推定されている。西暦で言うと1641〜1642年。
東照宮は寛永年間に大造替をしていて、奥の院の改修は寛永18年春に始まって秋にほぼ完成。
その寛永18年10月に、改修に貢献した家康の遺臣である松平正綱と秋本泰朝に刀と銀百枚の恩賞が授けられた。
この二人がその返礼として、特別に狛犬の寄進を許されたのが、関東における参道狛犬の事始、というのが定説だ。(狛研いちばんの研究者・山田敏春さんや狛研会長の三遊亭円丈師匠などがまとめた説)

ちなみに東京都内でいちばん古い狛犬は、目黒不動尊の承應3年(1654)。その次が赤坂氷川神社の延宝3年(1675)。
目黒不動尊の狛犬は他のどのタイプにも似ていないオリジナリティの高いもの。赤坂氷川神社の狛犬は変わったデザインだが、はじめちゃんに分類されるべきもの。
僕は、はじめタイプの狛犬は、村石工が想像力をたくましくさせて彫ったもので、平安時代に宮中で生まれた獅子・狛犬文化からの流れとは別に「伝聞発生」したものという説を唱えているのだが、獅子・狛犬様式をしっかり反映したはじめちゃんが多く出てくると、はじめちゃんにも早い時期から宮中からの情報が影響していたことになる。
そうした目で見ていくと、日光周辺のはじめちゃんは非常に興味深い存在だ。
そのうちじっくり時間をかけて見ていきたい。


境内に残る石造物で、いちばん古いのはこの三重の塔の形をした燈籠


元文3年と刻まれている


1738年。元禄より後、文政、天保より前

今市、日光周辺の狛犬は、ずいぶん前に見て回ったのだが、あまり収穫がなかった。
しかし、見落としている神社がたくさんあるはずで、これから少しずつ回っていきたい。


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