2013/10/02

それぞれの「戻らない」



1年分先払いで入会した「二宮いち」の通販、9月分が届いた。
こんな感じ↓


入院していた出戸さん、退院後の様子を心配していたが、なんとか大丈夫そうでほっとした。
久々に出戸さんの手作りお菓子が入っていたのが嬉しい。


栗饅頭。後で食べよう。とりあえず写真だけ……ね

一緒に、出戸さん夫妻が始めた「萬友荘」の紹介記事が入っていたので……↓


奇しくも、東京からは『プロメテウスの罠』の切り抜きと一緒に、川内村・遠藤村長のインタビュー記事の切り抜きも送られてきた。こんな内容↓




3.11後、外からの金の投入で、むしろインフラは前よりも整備された。医療施設「ゆふね」には内科と歯科(なかなか腕がよかった。僕も一度お世話になった)しかなかったのが、今は眼科、整形外科、心療内科まであるという。
僕は子供のときに従兄が農作業している鎌の刃先が左目に入って1年以上眼科に通った。その古傷が歳と共に緩んできて、ときどきひどい痛みを伴う糜爛になる。村には眼科がなかったから、富岡の眼科まで通ったものだが、今は「ゆふね」に眼科があるのか~~、と、ちょっと感慨深い。

で、郡山市、いわき市の仮設住宅や借り上げ住宅は再来年4月までは金が出るのだそうだ。
だから、それまでは本格的に村に戻ろうという人は増えないだろうと、村に戻って商売を再開している人が言っている。
家賃がかからずに都会生活ができるうちはその「権利」を手放したら損だ、という気持ちが働くのは自然なことだろう。で、そうした状況が続いていくと、気持ちはどんどん村から離れていく。村は「帰りたい場所」ではなく「いつか帰らなければならない場所」になってしまっているのだろう。

このインタビュー記事を読む限り、村長の言葉は、一時期よりずいぶん本音が入るようになってきたように感じる。
これを読んだ村民の一人は、
「住民説明会で住民側が本音と建前を使い分けてエゴを通そうとする、そうした事態に決別しようとする覚悟のようにも思える」とコメントしていた。
金が出るうちは都会の生活を楽しもうという住民がほとんどだとも。
「そんな連中の『帰らない理由』なんて、まともに聞いていられない」
とまで言い切る。

帰村を果たしたはずなのに、「精神的損害賠償」のひとり10万円/月も、20km圏以外では終了したはずなのに、仮設住宅や借り上げ住宅への援助がまだ続いていたとは知らなかった。

NHKで『28歳になりました』という、さまざまな境遇の子供たちの成長記録を7年ごとに追跡調査する番組を見た。
7歳のときにニコニコしながら「おとうさんの仕事を継ぐんだ」「将来はこの村で田んぼをやるんだ」「島の連絡船の船長をやるんだ」などと言っていた子供たちが、14歳では「早く村を出たい」と言いだし、21歳では都会に出て挫折していて、28歳では子供を作ってて、「村には戻りません。あとはここで平穏に暮らせればいい」などと言っている。歳を取るごとに笑顔から力、輝きが消えていく。そんなケースがものすごく多いので、見ていてなんだかどよ~んとしてしまった。
前から言っていることだけれど、過疎地で「若い人が戻ってこないと村が消滅する」という発想は間違いだと思う。
元気な熟年世代を呼び込み、血縁ではなく、その地域に惹かれて集まってきたという土地と自然への愛情と共感で継続していく地域社会を形成すればいい。

僕も含めて、外から過疎地に入っていった人間は、そこがよくて住み着く。
先祖代々のお墓があるからとか、ずっと守ってきた土地があるからとか、長男だから親の後を継いで田んぼをやらなくちゃいけないから渋々戻るとか、そういう人たちばかりで構成されていくと、やはり地域の活力はどんどん弱くなる。血縁もどんどん濃くなっていって、小さく固まってしまう。
選挙も、「本家の○○のせがれが親父の後を継いで立候補したから、一族郎党全員で今度はせがれに一票入れてやんねば」「お世話になっている○○社長が推している候補は▲▲さんだから……」といったしがらみで動く。
そうしてかっちかちに固められた土壌が干からびて、いよいよ苦しくなってくると、外から持ち込まれる金にはなんの検証もなく飛びつくようになってしまう。
この金を使いたければこれを受け入れろ、おとなしくここでこういう風に働け、と、人生そのものを決められてしまう。
道が広くなって舗装され、箱ものも立派に建っていき、一見、暮らしやすくなっていくように見えても、いちばん肝心な生きる意欲、活力、生き甲斐は薄れていく。

3.11前から、東北ではそういう地域がたくさんあった。
その典型が原発立地だった。
そこに放射能がばらまかれて、強制的に都会に「避難」させられて、パック旅行状態みたいな生活が1年、2年と続いたら、そりゃあおかしくなる。あたりまえだ。

この状況を変えていくにはどうすればいいのか、というのは、僕ら「移住者」の間では定番の論題だった。
同年代の友人は、「必要なのは外からの人材。それも適度にベンチャー精神を持った、欲のある連中が入ってこないとたちゆかない」と言っていた。
同感だ。
僕らのように、より快適で自由な余生を送るために自然豊かな山村に移住してきた、いわば「わがままな」人たち「だけ」では、やはり外からの圧力には抗しきれないし、地域に澱のように溜まっている悪癖、無気力に打ち勝つこともできない。
地元の人たちは、「いくらきれいごと、理想論を言っても、所詮外から来た連中のたわごと。俺たち、地元で生まれ育ってきた人間の苦労や心の中は分かるはずがない」と思って冷ややかに見ているし、僕たちも、そういう部分で軋轢を増やすことは避けたいから、「理屈」や「理想」を語らなくなる。

これを変えていくには、アイデア商法で儲けようとか、楽しく商売をしていきたい、汲汲とした都会の生活とおさらばしたいけれど、金儲けも必須。余裕を持って文化を楽しみつつ自然に囲まれてゆったり暮らすんだ、という意欲的な人たちが一定数集まってこないと難しい。
そういう人材が決定的に不足していた。
だから弱い。抵抗する力がない。
孫正義のような金儲けお化けが、「土地はいっぱい余っているんだから田畑をただ同然で提供してくれ。メガソーラーやらせろ」とか、田中俊一のような原子力ムラのドンが「谷をひとつつぶしてね。ふふふ、汚染ゴミを全部集めて……」みたいな話を持ち込もうとすると、拒否しきれずに簡単になびいてしまう。
3.11後も、「外からの金」が地域を滅茶苦茶にした。3.11前と同じ手法で。
鮫川村の放射性ゴミ焼却実験施設建設なんかは典型的な例だ。受け入れたい村が、住民の反対を封じ込めるのに躍起になっていたのだから、もう、なにをかいわんやだ。

話を元に戻せば、村で育った人間が村に戻ってきて家業を継がなければ村が消滅する、という発想はもう捨てるべきだ。
どんな人生をどこで送るかは、人それぞれ、自由に決めればいい。
大切なのは、「ここで暮らしたい」と思わせる魅力を村が保ち続けることだ。
それが失われたら、外から入ってくる人がいなくなる。そのときはもう、最後の希望も見えなくなる。

「村に戻ってこれるように仕事を用意する」というが、都会と同じような仕事をするのであれば都会で暮らしたほうがずっといいと考える人はたくさんいる。なぜわざわざ不便な過疎村に行って、都会と同じような仕事をしなければいけないのか。都会と同じようなアパート暮らしをしなければいけないのか。
誰だってそう考える。
都会の生活がいい人は都会で暮らしたほうが幸せに決まっている。

では、なぜ村で暮らしたいと思う人がいるのか。
答えは簡単。
その村にしかないものがそこにあるからだ。
自然に囲まれて暮らしたいから村の暮らしを選ぶのだ。人混みの中で暮らすのが嫌だから過疎地を選ぶのだ。
それを分からないで、これを用意しますから戻ってください、という発想だけでは、いつまで経っても村は強くなれない。

遠藤村長は本当によく踏ん張っていると頭が下がる。
ここまで本音を言えるようになったなら、もうひとつ開き直ってみたらどうだろう。
村長は川内村の魅力を、ちゃんと理解している人だと思う。そのことは今でも信じているし、彼の苦しい立場を思うと、軽々しいことは言えないとは分かっている。

その上で、これだけは忘れないで、と、お願いしておきたい。

「強い村」を作るには、強い意志と理想を持った人たちが集まらなければ無理だということを最優先で考えてほしい。金を投入してどうこうできるものではない。そういうのに嫌気がさした人たちが過疎地に集まってくるのだ。都会の真似だけしていたら、中途半端な、日本中どこにでもある田舎の雑多な風景になっていく。これは完全な自殺行為だ。
もちろん、村長はそれをよく分かっているとは思う。

であれば、今からでも、まず外から人を呼ぶこと。そして、時間をかけて、その人たちを惹きつけた村の魅力を外からのノイズやアタックから守ること。守るための財力や文化力を自分たちで築くこと。そうした戦略をとりつづけていってほしい。

出ていった者のたわごとを聴く筋合いはないと言われるのは百も承知の上で、一応「理屈」「理想」を述べてみた。

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