2014/12/09

小松利平・小松寅吉・小林和平の人物像に迫る(3) 和平編

生涯「芸術家」に憧れ続けた石工・和平

寅吉が力で突破していくスーパー職人魂の権化だとすれば、和平はもう少し複雑な職人気質の持ち主だったと思われる。
和平の人物像をもう一度おさらいすると…… ……というのが僕の分析だ。

寅吉の人生が、長男に生まれながら子供のときに丁稚に出されたことへのトラウマを背負い続けたものだったのに対して、 和平の人生は、親方・寅吉への尊敬と反発が入り交じった情念に満ちたものだった。
和平は少年時代に家を出され、寅吉の下へ弟子入りした。その点では親方・寅吉と同じ少年時代を過ごした。
弟子たちの中で、いち早く抜きん出た才能と技術を発揮したことでも親方の少年時代と同じだっただろう。
違ったのは、利平が実子の彦蔵ではなく、血のつながっていない寅吉を後継者として選んだのに対して、寅吉はあくまでも実子の亀之助を後継者にしようと腐心したことだ。
和平はやんちゃで、21歳のとき、親方の長期出張(雲照寺に2年間住み込みで出張し、准提観音像などを彫っていた)の間、工房の留守を預かっていたとき、まだ弟子の身分でありながら、親戚筋?の小林家から依頼された石の社殿を作った後、勝手に「石工 小林和平」という銘を入れている。
また、年季明けしていない24歳のときには、年上の女性との間に子供も作ってしまった。
どちらも工房の中では「弟子が勝手なことをした」事件だったはずだ。
生まれた男の子は2歳で死んでしまう。27歳のときには次男も生まれるが、その子も生まれてすぐに死んでしまった。
ようやく結婚と独立を許されたのはその直後だ。
その時期、寅吉の長男・亀之助は、寅吉から「布行」の名をもらい、工房で製作された作品には「布孝 布行」と親子連名の銘も入れられるようになった。
和平がどれだけ悔しく、屈折したかは想像に難くない。

結婚を許されてから生まれた3番目の子は女の子だったが、その愛娘も石川高等女学校在学中16歳の若さで亡くなる。当時、娘を女学校に通わせるなどということはなかなかできなかったことで、和平が娘をいかに大切に育てていたか分かる。その悲しみはいかばかりだったろう。

和平が何かに取り憑かれたように次々と傑作を彫っていくのはその直後からだ。寅吉の工房での辛い体験、3人の子をすべて失った喪失感を乗り越えようとする意志が、一種の信仰心のように昇華したのかもしれない。

和平は寅吉に比べると、中央美術界への憧れや、単なる「石工」を超えた芸術家にならんとする気持ちが強かった。
和平の家には、自分の作品を撮った写真と一緒に、帝国美術展(今の日展)出品作の絵葉書が1枚残されていた。

「帝国美術院第拾壱回美術展覧会作品 稚児文殊 阿井瑞琴氏作」とある

おそらく、稚児文殊がまたがる獅子の姿を参考にしたのだろう。
この絵葉書を見たとき、和平は寅吉以上に「芸術家」になりたかったのだと思った。
寅吉は「これでもか」というくらいに装飾をごちゃごちゃと施すことで自己主張したが、和平は洗練されたデザインということにこだわっていた。
昭和5年の石都都古和気神社の狛犬と昭和7年の古殿八幡神社の狛犬は和平の二大傑作と言えるが、実はその間、昭和6年には須賀川市の保土原神社に飛び獅子を建てている。
この3作を並べてみると、和平が少しずつデザインを変えていった過程がよく分かる。

上から、石都都古和気神社、保土原神社、古殿八幡神社の飛び獅子。尾のデザインなどがどう変わっていったかがよく分かる

僕は、こうした和平の「俺は単なる石工では終わらないぞ。アーティストとしての生涯を生きるのだ」という意欲に打たれるのだが、桂監督は、和平より寅吉のほうが好きな理由を「和平さんのアーティストとしての野心が、私にとってあまり心地いいものでなかったのかもしれません」と語っていた。
このへんでも、寅吉が好きか和平が好きか、人によって分かれる。実に面白い。

和平はプライドが高く、肩で風を切って歩くようなところがあったらしいが、心根はとても優しく、情の深い人だったということも、いろいろな証言で伝わってくる。
寅吉から独立した後も、和平は寅吉工房に出向いて親方の仕事を熱心に手伝っていた。特に、寅吉最晩年の頃は、体力が衰えていく寅吉が頼りにできたのは和平しかいなかった。
あれだけ苦しんだ(はずの)親方との確執も乗り越え、親方への忠義も貫いた。寅吉が親方利平が存命中は決して自分の銘を彫らなかったように、和平も、寅吉が亡くなるまでは二度と自分の名前を作品に彫ることはなかった。21歳のときの「銘事件」を引きずっていたのだろうが、そうした頑固さは親方・寅吉に負けない。

和平の作品をどう評価するかは意見が分かれるところかもしれない。
古殿八幡神社の狛犬は、デザインが懲りすぎていて好きになれないという人もいるだろう。
それでもみんなが一致するのは「石都都古和気神社の狛犬はいいよね」という点だ。
穏やかな顔の親子獅子。無邪気にじゃれ合う3頭の子獅子の生き生きした表情。
そこに和平の慈愛に満ちた人間性を見て取れるからこそ、感動が増すのだと思う。


石都都古和気神社の飛び獅子 (小林和平 昭和5年)


吽像(母獅子)に寄り添う3頭の子獅子は、幼くして失った3人の子供たちへの鎮魂

和平はいかつい顔をしているが、動物好きだったのだろうと思う。
和平の飛び獅子の後ろ肢がびろ~んと伸びているのは、リラックスして寝そべっているネコの後ろ肢そのものだ。
また、キツネの像も何体か彫っているが、優しい顔で、見ていてとても和む。
もしかすると、借宿の石柵扉下に彫られた兎も、もしかすると少年時代の和平が彫ったのではないかなどと想像してしまう。
アーティスト・エゴが強く、プライドの塊のようだった和平だが、実は人一倍寂しがり屋で、動物好き、人間を愛したくてしょうがない、人情あふれる人だったのではないだろうか。



和平が彫ったキツネ 昭和02(1927)年1月 和平45歳のとき
もしかするとそばに置かれたネコの像は少年(丁稚)時代の作品?



そんなこんなで、利平、寅吉、和平の人間像に勝手な想像を膨らませて迫ってみた。
和平の人生を変えた昭和5年の石都都古和気神社の飛び獅子(昭和5年 和平48歳)と、和平の最後の作品となった玉川村 川辺八幡神社の狛犬(昭和38年12月 和平79歳)の狛犬の顔を見ていると、この石工三代記を生むことになった利平が彫った(であろう)八槻都々古別神社の狛犬(吽像)の平べったい顔を思い浮かべてしまう。
利平という天才が福島に渡ってきて住みついたおかげで、いくつもの傑作石造物が誕生した。
いろいろ見て、想像を膨らませてきたが、今、僕は謎の石工・小松利平の「アーティストとしての孤独」に、いちばん思いを重ねている。


左:八槻都々古別神社の狛犬吽像(天保11(1840)年) 小松利平(推定)
右:玉川村川辺八幡神社の狛犬阿像(昭和36(1961)年) 小林和平









神の鑿
神の鑿 (たくき よしみつ) 


江戸時代天保年間、高遠藩を脱藩して南福島・福貴作集落に身を潜めて定住した謎の天才石工・小松利平。その利平の弟子・小松寅吉布孝と孫弟子の小林和平。3代続いた名石工が残した驚異的な石彫刻作品の数々を、それぞれの人間ドラマを推理しながら紐解いていく。

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