のぼみ~日記 2015

2015/01/22

さらば タヌパック阿武隈


↑朝7時38分 寝床の中で川内村の県道の積雪状況を確認
今日はタヌパック阿武隈の最終引き渡し。
午前中に本宮市の銀行に行って最終決済と所有権移転手続き。
その後、買い主のSさん、不動産屋さんらと川内村に向かい、引き渡し。

低気圧が来て1日中荒れた天気になるということは1週間前から予報されていたので、ずっと心配だった。
この前の雪では、東北道が一時通行止めになるほど積もったし、道路がなんとか通れたとしても家の前は未舗装で車も通らないから、20センチも積もられたら車で入れなくなる。
X90なら20センチくらいの雪ならかき分けて進めるのだが、凍結路ではすぐに滑る。ショートボディでABSもエアバッグもついていない。普段から急ブレーキを踏むとくるっと一回転したりする怖い車なので、極力あれで長距離移動はしたくない。
かといって、FFのプジョーではスタックしたらお手上げ。
数日前から川内村内に複数取り付けられているライブカメラの映像、天気予報、道路規制情報を何度も何度もチェックしながら気を揉んでいた。
朝起きてライブカメラの映像を確認し、なんとか轍が見えていたので、プジョーで行くことに決める。

東北道が雪でスピードが出せないと本宮まで相当かかるかもしれないので、予定より30分早く家を出た。
幸い、出たときは道にうっすらと雪も積もっていたが、高速に乗ってからはほとんど問題なく走れて、約束の11時よりずっと早く到着した。



東北道は順調だったが、途中、郡山IC付近でピーピーと音がしてぎょっとした。
線量計の警告音だった。日光~矢吹~小野~川内村というルートで今まで何往復もしてきたが、線量計の警告音がしたことは一度もない。
そういえば、郡山市内の不動産屋さんに最初の契約に出向いたとき、市内で一度線量計が鳴ってびっくりした。
郡山はやはり線量が高いという事実を改めて思い知らされる。
それでも町の中では普通にみんな生活していて、今はもう、放射能汚染を話題にすることが完全にタブーになっている感がある。
福島の人たちはみんなそうした事情を分かって、飲み込み、沈黙しながら生活している。その雰囲気や精神状態は分かりすぎるほど分かっているので、僕も今では積極的に公言することはない。
話題にしても、ここで暮らしている人たちには「余計なお世話」「言ったところでどうなるものでもない」ことだし、外から見ている人たちにはさらなる刺激材料になり、一部では情報が加工されて暴走していくだけだからだ。
「フクシマ」の問題は、「福島が……」という話ではないのだ。
放射線量がどうの、という単純な話でもない。
何度も書いてきたように、「フクシマ」はシステムの問題であり、社会のあり方、人の心のあり方、生き方の問題なのだ。
しかし、現実として郡山市や福島市といった福島県を代表する都市部が今も相当に汚染されていることはしっかり認識しておく必要がある。
認識してほしいが、外から見ている人たちには、非難の矛先を決して間違えてほしくない。「なぜ逃げ出さないのか?」ではなく、まずは自分たちが選んだ政治家や、今も電気料金を払い続けている電力会社が何をしてきたのか、今何をしているのか、していないのかを考えれば、福島に暮らす人たちを責めるようなとんちんかんな論法にはならないはずだ。

で、朝飯は本宮IC手前の安積PAにて。連日、寒さの中で作業したりして身体を酷使していたせいか胃が痛いので、うどんにした。
胃が痛いのはストレスのせいもあるかもしれない。

銀行には一番乗りだった。不動産屋さん、買い主のSさん、そして司法書士が来て契約手続きに入る。
無事に終わって、それから車3台で川内村に移動。
僕らは郡山ジャンクションから磐越道に入って小野IC経由で。通い慣れた道だから、雪が積もっているとしてもどのへんが危ないか、どの程度なら突破できるのかは分かっている。
不動産屋さんや買い主のSさんは288号で都路方向から向かうというのだが、ずいぶん遠回りだと思う。

途中、あぶくま高原SAで肉まん1つを胃袋に補充。「東北6県饅」とかいう名称で、各県の特産物を具に使っているというふれこみだったが、素直な豚まんのほうがうまかったかもしれない。


東北6県饅頭というびみょ~な中華まん

12時50分頃に到着。
不動産屋さんとSさんはまだ着いていない。
倉庫を開けてゴミが片付いたことを確認し、母屋の風呂場にAmazonで取り寄せたINAXの混合シャワー水栓を取り付けていたら、不動産屋さん、Sさんがやってきた。
Sさんに室内を確認してもらい、水回りなど、いろいろな注意点を伝達。
概ね終わっても、クロネコがまだ来ない。僕らだけ残って荷物を送り出すことにして、不動産屋さん、Sさんは先に引き上げた。

クロネコを待つ間、助手さんは奥のきよこさんの様子を見に。
夕方、一人暮らしのきよこさん(80代半ば)の様子を見に通うのが日課だった助手さんにとって、これがおそらく最後の訪問になる。

ようやくクロネコが来て、プジョーに積みきれずに残った12個の段ボールを運び出した。
これで全部終わりだ。

僕もきよこさんの顔を見に奥に向かった。
原発が爆発したときも、助手さんはきよこさんの様子を見に行っていた。テレビで爆発シーンを見た僕は、恐怖で心臓がバクバクして、息苦しくなりながらこの坂を登って呼びに行った。きよこさんちの玄関を開け、「逃げるぞ!」と言った僕を、みんなは一瞬きょとんとした顔で見ていたっけ。

きよこさんはいつもと同じ場所(玄関を開けるとすぐに目の前)で炬燵に入っていた。
あんたらのようないい人たちが去って行くのは嫌だ、と言う。
「大丈夫。次にくる人はとてもいい人ですから。不在のままの僕らよりずっといいですよ」
と言ったが、笑顔はない。

みぞれ混じりの雨が強くなってきた。暗くなると帰り道が危ない。
「じゃあ、行くね。お元気でね」
別れを告げて雑木林と沢の間の道を下って戻る。


いよいよ見納めのタヌパック阿武隈。しょうかんさんが設計し、よりみち棟梁や愛ちゃんたちと一緒に建てた。
もう、ここを「うち」と呼べなくなってしまった。

7年間。

川内村で暮らした時間。
2004年、中越地震で越後の家を失って、年末にこの地にやってきて、それから2011年、原発が爆発して逃げて、1か月後にまた戻って、11月まで、全村避難のこの村で暮らしていた。
原発が爆発し、放射性物質をまき散らすまでは、ずっとここに暮らして、生きること、生き抜くこと、人との関係、自然との関係を考えながら歳を取り、一生を終えるつもりだった。
それが、たかだか(と敢えて言う)原発が爆発したというだけで、いろんなことがぐちゃぐちゃになり、バラバラになり、消えていく。
関守・じゅんこさん夫妻は北海道へ、しょうかん・愛ちゃん一家は岡山へ、みれっとのよーすけさん・けーこさん夫妻は長野へ、小塚さん夫妻、出戸さん夫妻は佐渡へ、佐藤こーちょーは三島へ、ブッチ・りくさん夫妻は山形へ、そして僕らは日光へ……今はもうみんな散り散りになってしまった。

「あれ」が起きてからもうすぐ4年。
今はもう、怒りとか絶望とかを超えて、なんだか淡々とした、それでいて割り切れないという、不思議な気持ち。

雪道を滑りながら車を出す。下のけんちゃんの家に寄って最後の挨拶。
「せっかく親しくなったのに、いなくなるのは嫌だねえ。また来たときは寄らっしぃ」
きよこさんと同じことをけんちゃんの母親・ふさこさんも言った。
毎日一緒に散歩したジョンもいない。ジョンは所沢で幸せに暮らしていると思う。
「お元気で」
ふさこさんに、きよこさんに言ったのと同じ言葉をかける。
精一杯の笑顔で言ったけれど、多分、もう会えない。
お互い分かっている。
「これ、お菓子です」
と、かみさんが菓子折を渡す。これが最後の菓子折。

言い尽くせない思いが頭の中を巡る。

阿武隈……50代になって「これだ」という思いがあった。阿武隈に呼ばれたのだと思った。阿武隈で余生を過ごし、死ぬのだと決めた。その「阿武隈」というキーワードが、どんどんフェイドアウトしていく。
悔しいというよりは、脱力……だろうか。あまりにいろんなことがあって、今はうまく言葉が紡げない。

きよこさんもふさこさんもけんちゃんもしょーたろーさんも、ここにいる人たちはみんな、それぞれに生きている。精一杯。
なにが正しいとか、間違っているとか、もう、そんなことはどうでもいいという気持ちになる。
だって、みんな、それぞれに精一杯生きているんだもの。
力尽きて死んでしまった人たちもいっぱいいる。僕がBSアンテナをつけてあげたまさときさんはじめ、近所の老人たち。死屍累々。
「あれ」がなければ、多分今も生きていただろう。昨日と同じ今日を生きて、笑っていただろう。
みんな生きがいを失い、たちまち身体を壊して、あっという間に死んでしまった。
ばあさんたちよりじいさんたちのほうが変化についていけず、弱かった。
でも、そういうことも含めて、人生であり、運命であり、この「世界」の現実なのだ。

「あれ」は、人間だけではなく、阿武隈に棲むあらゆる生き物を巻き添えにした。
今年もマツモ池、雨池、土手池、弁天池の上の枝に、モリアオガエルは卵を産むのだろうか。
僕はもう確かめられない。

Sさん。あとはお願いしますね。
池の水、絶やさないようにしてくださいね。
5年かかったのよね。「モリアオガエル同棲計画」
結局、モリアオガエルと一緒には暮らせなかった。

Sさんの家は「帰還困難区域」。
今も家の周りは7μSv/hくらいあるという。
0.7 じゃなくて、7。
もう、無理だよね。生きているうちに帰るのは。
それでもSさんは、消防団の一員として、今も100km近い距離を走り、自分が生まれ育った町に通う。誰もいなくなった町の保安のために。

「(帰れないと思っても)やっぱり故郷は捨てられませんか?」
と、恐る恐る訊いてみた。
柔和なSさんの顔がたちまちくもり、少し押し殺すような声でこう答えた。
「だって、爪に火を点すような思いをしながら、ようやくあそこまでこぎつけたんだから……。それが全部……」
Sさんは個人商店主だ。お店兼自宅の様子をGoogleのストリートビューで見た。シャッターが下りたままの建物はまだ新しいように見える。でも周囲に人影はまったくない。
ゴーストタウンになってしまった故郷、そして生きているうちには戻れそうもない我が家。

Sさんは「福島県もりの案内人」「日本自然保護協会自然観察指導員」などの肩書きを持っている。風貌は熊オヤジというかマタギというか……いかついのだが人なつこい笑顔が素敵な人だ。
僕が作った「阿武隈カエル図鑑」を家の中に残しておいた。
カエルたちのことがいちばん心配だったので「できることなら池は守ってください」とお願いしたら、「楽しませてもらいます」と笑顔で答えてくださった。
この地にはきっと、雑木林とカエルの神様が住んでいるんだろう。その神様に僕らが呼ばれた。そして、今度はSさんが呼ばれたんだと思う。

Sさん、ここを買ってくださってありがとうございます。
カエルたちをよろしくお願いします。





さようなら、タヌパック阿武隈




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