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「再エネ比率の高い新電力と契約したい……という絶望的な無知無理解」について、いまひとつ理解されていない人が多いようなので、今回は図を使って説明してみる。
上の図は、電源構成比で再エネ比率が5%の事業者Aと60%の事業者Bがいたとして、実際にはどういうことになっているのかということを説明しようというものだ。
事業者Aは一般家庭に電気を売ることができるようになった今年4月以前からPPS(新電力事業者)として企業や自治体などに電力を供給している実績があり、
自社の発電所も所有して実際に発電事業をしている業者だ。この事業者Aの売電実績を100とする(事業者Aの下のグラフ)。
事業者Aの売電実績は100だが、自社発電所の発電能力は82(上のグラフ)で、足りない分の18は提携事業者(大手電力会社など)から買っている。
事業者Aが所有している発電設備のうち再エネと呼ばれるもの(ほとんどは太陽光発電)の比率は5だが、この数字は発電実績ではなく設備容量なので、実際にはその20%とか30%程度しか電気は作れない(太陽光なら夜間や曇りの日は発電できないから、当然そうなる)。発電実績のグラフで、自社の発電能力のうち再エネの分(水色の部分)が減っているのはそういう意味だ。
一方、再エネ比率が60%ですよと謳っている事業者Bは、実際には自社での発電能力は10しかない。しかし、「自然エネルギーを大切にしている事業者から電気を買いたい」という人たちの契約を増やして、売電実績は事業者Aの倍の200に達しているとする。
となると、足りない190以上の分はすべて提携他社から供給される電気なわけで、全売電量に占める再エネの比率は5%を切ることになる。
公開するべきなのは、新電力事業者がどれだけの発電実績(能力)を持っているのかというデータだというのは、こういう意味である。
ここでさらに注意したいのは、自社の発電能力といっているものがどんなものなのかということだ。
実際に自社で所有している発電所のことなのか、それとも
全国のソーラー発電事業者などから「1円高く」買い取った電気をも「自社の発電能力」といっているのか。
⇒ここに、「東京電力エリアで電力供給サービスを提供している新電力事業者(PPS)の一覧(25社)」という資料がある。
数字は自己申告のようだし、いつの時点でのデータなのかもいまひとつはっきりしないが、非常に興味深い。
例えば、最新月実績で990,300 MWhを誇る「株式会社エネット」は、「直近の1年間で約12,033GWhの供給実績」があるとされているが、同時に「年間自社発電量は0 MWh」とある。間違いでなければ、要するに多くの提携事業者から電力を買い取ってそれを再販している大手ということだろうか。
年間1,578,674 MWhで第4位のエネオスでんきは、年間自社発電量:786,135 MWhとなっているから、どうやらそれなりの規模の発電所を自己所有しているということなのだろう。
何かと話題の多いソフトバンクでんきは、年間供給力:14,356 MWhで自社発電量は0 MWh。目下、自社傘下の企業が全国にメガソーラーをどんどん建設しているようだが、国が決めた買い取り価格より1円高く買い取りますよという商法でも有名になった。
ここで「買い取る」とか「再販」といった言葉を使ってみたが、実際には各ソーラー発電設備は従来通りの送電網(10電力会社)につながれていて、例えばそれまで東電に売電していたのをソフトバンクでんきのような「1円高く買い取ります」という新電力業者に売ることにしたとしても、設備関係になんら変化はない。コンピュータ上で数字をやりとりしている中での契約変更なのだ。
これは、
一般家庭が「どの事業者と契約しようが、契約者の家に届く電気の発電元は選べない」というのと同じことだ。
昨年(2015年)、
日経BP社のエネルギー専門誌「日経エネルギーNext」が「第1回 新電力実態調査」というのを実施して、その結果を発表した。
回答企業122社のうち、「送受電実績がある」と回答したのが38社、「これまで送受電実績はない」と回答したのが84社。
このうち、「自社で発電所を持っている」と答えたのは送受電実績のある38社のうちの31社(81.6%)。実績なしの84社のほうは59社(70.2%)でそれほどの差はなかったが実績なしの59社のほうはほとんどが太陽光発電で、火力発電所はほとんど持っていなかった。
自社発電所の中身は「実績あり」と「実績なし」では大きく異なる。「実績あり」の新電力の場合、55.3%が太陽光発電を持っている一方で、石炭火力(10.5%)や石油火力(10.5%)、ガス火力(23.7%)、バイオマス発電(15.8%)、廃棄物発電(10.5%)といった火力系の発電所を併せ持っているケースが多い。
これに対して、「実績なし」の新電力は67.9%が太陽光発電を持っているものの、火力系の発電所はほとんど持っていない。つまり、電力市場に新たに参入を検討している新電力の多くは、極端な太陽光依存の状態にある。
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の導入で、全国に太陽光発電所が急拡大した。つまり、新電力が急増している背景にFITがある。現在は太陽光で発電している電力を大手電力会社に買い取ってもらっているが、全面自由化を契機に自社での販売を検討する太陽光発電事業者が増えているのだ。
(2015年3月25日 日本経済新聞「本番前に淘汰開始、太陽光バブルが生んだ「新電力バブル」 」)
要するに、自分では1kwも発電をせず、株取引や為替レートで儲けるように、単に数字のやりとりだけで儲ける企業がいっぱい出てきたわけだ。
5月18日の第6回買取制度運用ワーキンググループにて、FIT電源の買取制度の一部変更が決定されました。
事の発端は、買い集めてきた太陽光発電の電気を卸電気市場に「転売」するだけで、数億円もの利益を出した企業が現れたことです。
これは、自社の火力発電の電気を市場に売るのとは訳が違います。
FIT(固定価格買取)の認定を受けた太陽光発電の電気の買い取りには、その買い取り量に応じて、新電力が負担調整機関から交付金を受け取ることができ、また、この交付金は「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という税金を原資としています。
そのため、太陽光発電を卸電力市場に横流しするだけでは、再生可能エネルギーの普及には寄与していないため、交付金を給付する趣旨とは外れているということで、問題視されたのです。
(スマートエネルギー研究会のブログ「プレミアム買取ビジネスが危うい!FIT買取制度の変更について!」より)
いわゆる「太陽光バブル」というものの実体をちゃんと分からないままに、ただただ「自然エネルギーを多く作っている会社と契約したい」などという誤解をするのだけはやめてほしいと思う。
こんなバーチャルビジネス的金儲けのために一国の大切な電力事業体系がどんどん歪んでいくことはなんとしても避けなければならない。
これ以上騙されてはいけない。
本気で原発をやめさせるには、こうした間違いだらけのシステムをひとつひとつ正していくことが必須なのだ。
何度もいってきたように、総括原価方式と再エネ賦課金などの不公正な補助金をやめさせれば、原発は維持できず、なくなる。
あとは、現在の再エネ賦課金同様に、電気料金の領収書・計算書には
「原発後始末負担金」として廃炉や事故賠償金の分を我々がどれだけ負担しているかを明示すればよい。そうすることで、ようやく日本国も日本人も、自分たちが犯した間違いを認識し、将来の世代への責任を果たしていく意識を少しでも持つようになるかもしれない。