カエル図鑑(8)

シュレーゲルアオガエル

シュレーゲルアオガエル
分布
北海道を除く日本全域。湿地や田圃のそばの草むらなど。

大きさ・容姿
シュレーゲルアオガエル

30mm~60mmくらい。オスはメスに比べるとかなり小さく、色も濃いことが多い。
本州にいるカエルの中では、もっとも美しく、愛されているカエルかもしれない。きれいな緑色をしていて、ほとんど無地。モリアオガエルは西のほうにいる種は細かな模様が入っているものが多いが、シュレーゲルアオガエルは日本全国どこでもほぼ緑一色。
小さいうちはアマガエルとよく間違えられるが、目の後ろに黒い筋がないのですぐに見分けがつく。また、子ガエルのうちから性格がおっとりしていて、近づいても逃げない。
アマガエル同様、茶色に変色もする。変色したメスはまだ実際には見たことがない。オスのほうが変色する頻度が高いような気がする。


産卵
アマガエルよりやや早く、3月くらいから繁殖行動を始める、寒い地方では7月近くまで。
田圃の畦などに横穴を掘り、そこに白いメレンゲ状の卵塊を産みつける。

シュレーゲルアオガエルの抱接



背中にオスを乗せたまま、メスは落ち着ける産卵場所を求めてさまよう



腹は卵ではち切れんばかり



土がないので、岩の間に潜り込む



気に入らず、また出てきた



しばらく離れているうちに、産んでいた



産み立ての卵塊。真っ白できれい

(以上、抱接から産卵までの写真は、2008年5月1日、福島県川内村の自宅庭の池で撮影)
しかし、晴れた日が続けば卵を取り囲む土が乾いて干上がってしまうし、大雨が降れば孵化を待たずして流れ出してしまう。極めてリスキーでデリケートな産み方だ。
卵塊はモリアオガエルのものに比べるとずっと小さく、泡も柔らかい。水を含むと溶け出してしまうので、よほど運がよくないとオタマジャクシになれない。
田圃の畦に穴を掘って産みつけられたものは、田圃に水を張られたときや代掻きのときに流れ出してしまい、孵化できないままトラクターによって無惨に切り刻まれたり、溶けてしまったりする。

田んぼの縁に産みつけられた卵が露出して見えている
(2012/04/28 日光市手岡)



土手の土がえぐれて、水田の中に流れ出してしまった卵塊
早い時期にこうなると、孵化する前に卵塊が腐ってしまう
(2012/04/28 日光市手岡)


代掻きしているトラクターに巻き込まれても、ミキサーされて一巻の終わり



卵塊が溶けてしまい、完全に孵化できなかった卵↑ 左はすでに黴が生え、右のオタマは未熟なまま動いている。
自然界では、この状態で生まれたオタマが生き残る確率は極めて低い。しかし、この未熟な状態でも、洗面器などでていねいに育てるとなんとか持ちこたえる子もいる



孵化できずに溶けてしまった卵。無念



流れ出たシュレーゲルアオガエルの卵塊をむさぼり食うアカガエルのオタマ


孵化~オタマジャクシ時期
田圃で育つカエルの中で、シュレーゲルアオガエルはいちばん孵化が難しいのではないだろうか。
産卵後、雨が降らないと卵塊が乾いて卵は死滅する。
産卵直後に大雨が降ったり、急に田圃の水かさが増したりすると流れ出してしまい、オタマになる前に卵塊が溶けて、卵は腐ってしまう。
卵塊の中でオタマジャクシに孵化しても、雨が降らないと外に流れ出せない。それも中途半端な雨では、オタマが土の上や土の中に流れ出てしまい、水のあるところまで移動できない。
こうした試練をすべてクリアしたものだけが、水田の中でオタマジャクシとして育つわけだが、今度は変態する前に水を抜かれてしまって干上がる危険が残っている。

孵化直後のオタマジャクシ。これはかなり未熟なままオタマになった例



成長するにつれどんどん黒くなる


オタマジャクシはアカガエルのオタマくらいに大きくなるが、アカガエルに比べるとスリムで、色が薄い。
力強さもあまり感じられず、オタマもまたひ弱でデリケートな印象を受ける。
アカガエルのほうが先に大きくなっているので、小さなオタマのうちに、アカガエルのオタマに食われてしまうものもいる。

変態直後のシュレーゲルアオガエルの子

変態
変態して上陸したシュレーゲルアオガエルの子は、すぐにどこかに移動していく。
変態直後のカエルの子はしばらく水の周りでぼーっとしているものだが、この時間が短いようだ。

鳴き声
繁殖期には、キリキリキリ、コロコロコロ……という感じで澄んだ声で鳴く。アカガエルの鳴き声との区別が難しいが、シュレのほうが透明感がある。
田圃に水が入った頃には、大音量のアマガエルの声に混じって、シュレの澄んだ声が聞こえてくる。

シュレーゲルアオガエルの鳴き声。カラカラカラと澄んだ声で鳴く
(2012/04/29 日光市手岡)





性格
シュレーゲルアオガエルはおとなしく、おっとりしている。土の上でおっとりしているのがツチガエルだとすれば、草木や人家の壁に張り付いておっとりしているのがシュレーゲルアオガエルといったところか。
近づいても逃げない。アマガエルのようにあくせく餌を求めている風でもない。貴公子然としているとでもいえばいいのか……。
アカガエルに比べると、「ええとこの子」というか、お金持ちのおぼっちゃまおじょうさま育ちの香りがする。カエル界の公家か。競争にも弱く、運任せ。よくこれで、厳しい世の中を生きていけるものだと感心する。
モリアオガエルと比べると、体力の点で負ける感じ。
全国的にはモリアオガエルのほうが絶大な人気を誇っているが、将来、シュレーゲルアオガエルのほうが先に絶滅危惧のレベルが上がっているかもしれない。

タゴガエルとシュレーゲルアオガエルの異種抱接
2007/05/07 川内村の自宅敷地内にて


↑タゴガエルに抱かれるシュレーゲルアオガエル。長い時間じっとしていた。こんな光景を見ても、シュレはなんともおっとりしたカエルだなあと思ってしまう。

日光のシュレーゲルアオガエル

逆にトウキョウダルマガエルに抱きついたシュレーゲルアオガエル(2016年5月、日光市)

田んぼで流出卵塊も見るし、鳴き声もよく聞くのである程度の数はいるが、あまり姿を見ることはない。
2012/08/17 日光市の自宅敷地内 日光で初めて見たシュレはスチール物置の壁に貼り付いていた



シュレーゲルアオガエルをもっと知ってほしい……という願いが込められた「里山新唱歌」↑
なぜドイツ人の名前が?
「シュレーゲルアオガエル」という和名については、「森水学園」の大楽センセのカエル学に詳しく解説されている。
サトアオガエルと呼んだらどうかという提案については「シュレーゲルアオガエルという名前は、日本の自然科学黎明期を伝える素晴らしい名前だ」と反論する人もいる。
まあ、今から正式和名を変更するのは大変だろうし、ツチガエルがイボガエル、ヒキガエルがガマガエルと呼ばれるように「通称」として広まればいいのではないかな、と僕は思っている。
ついでにニホンアカガエルもサトアカガエルと呼べば、生息環境の違いを表せていいのではないか、と。

index


(名前をクリックするとそのカエルのページに飛びます)

ヒキガエル科

アズマヒキガエル

アマガエル科

ニホンアマガエル

アカガエル科

ヤマアカガエル  ニホンアカガエル タゴガエル トウキョウダルマガエル ツチガエル

アオガエル科

シュレーゲルアオガエル モリアオガエル

ヌマガエル科

 ヌマガエル(「アカガエル科」としているものもある)


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森水学園第三分校

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