今市の彫刻屋台 運営・保存・PRの課題


彫刻屋台というものすごい文化遺産があると知ったのは、日光に移住してきてまもなくのことでした。鹿沼の「屋台のまち中央公園」の展示室で彫刻屋台の実物を見て驚きました。
その後、秋祭りを3回、春のパレードを1回見て、大量の写真を撮り、「鹿沼の彫刻屋台を深く楽しむサイト」というものを立ち上げました。
それほど彫刻屋台という文化には感銘を受けたわけです。

彫刻屋台のことをいろいろ調べていくうちに、同様の屋台が今市や文挟、石那田、粟野などにもあるということを知りました。
粟野は見ましたが、石那田(2年に1回)はまだ見ていません。文挟は長いことばらしたまま保管されていて、今後もこのままでは雄姿を見ることはできそうもありません。
今市の彫刻屋台がお披露目されているらしいと知ったのは2013年のことです。しかし、屋台祭りの当日は激しい雨。これは当然中止だろうと行かなかったのですが、後から、雨の中強行したと聞いて驚きました。

今市の屋台はどの程度のものなのか……正直に言えば、実際目にするまではあまり期待していませんでした。
鹿沼の彫刻屋台に比べれば落ちるのではないか。数が少ないのはいいとして、屋台の出来、芸術性はどうなのか……と。
しかし、その予想は見事に覆されました。鹿沼の屋台に比べてもまったくひけを取らない。透かし彫りの技術などはむしろ今市のほうが上ではないかと思える屋台もあります。
また、現存する6屋台すべてが江戸末期〜明治期にかけて、彫刻の技術がピークにあったと思われる時期の作品なので、レベルが粒ぞろい。少しずつ個性も違っていて、見る者を堪能させてくれます。

しかし、屋台のレベルが高いだけに、その保存・保管方法、PRの仕方、祭りの運営方法などの問題点がとても気になりました。

まず、内容を知るための資料がほとんど見つかりません。
ネットで「今市 彫刻屋台」というキーワードで検索しても、日光市の内容がほとんどないページがヒットする程度。鹿沼の屋台に関する資料ページはかなり出てくるのに……。
鹿沼の場合、毎年カラー刷りのガイドブックを作り、祭りの会場で無料配布しています。今市ではそういうものが見あたりませんでした。案内所のようなテントがあるはずだ……と、今市駅まで行ってみましたが、見つかりませんでした。
ネットを検索していると、数少ない情報の中に⇒こんなブログがありました。
このブログ主(大田原市在住)は、2009年10月21日、つまり一回目の今市屋台まつりに出かけていき、そのときの印象を綴っているのですが、「他人の振り見て、我が振り直せ、ではありませんが、気が付いた点がいくつか・・・」と、気になった問題点を列挙しています。そのまま紹介してみます。
(以上、ブログ「祭り好きな床屋です。」より)

このブログ主さんは2009年の屋台祭りに行ってこういう印象を持ったわけですが、それから数えて6回目になる今年(2014年)に初めて行ってみた私も、まったく同じ印象でした。
つまり、この5年間、こうした問題点がなんにも解決・改善されないまま回数だけを重ねているわけです。
祭りは自分たちのもの。よそから来たやつが祭り運営の苦労も知らないくせに勝手なことを言うな! という反発を百も承知の上で、敢えて私も提言いたします。
この素晴らしい文化遺産をもっと広く知ってもらい、今後もずっとよい形で保存していくために、改善すべきところはしていきませんか、と。

以下、テーマ別に列挙してみます。

 1 「見せ方」が雑

いちばんがっかりしたのは、昼間から提灯をつけていることです。せっかくの彫刻が見えません。
特に、鬼板は屋台の看板。彫り師や大工たちが精一杯主張を込めて作っているシンボルです。それが提灯に隠れて見えないというのはあまりに情けない!
屋根の上の彫刻などはほとんど見られません。
鹿沼では昼間は提灯を外していて、日没に合わせて提灯をつけます。
手慣れていないとさっと提灯がつけられないため、最初からつけておこうということになったのでしょうが、それなら夜の部がなくなってもいいとさえ思います。
彫刻屋台の特殊性(芸術作品・有形の文化遺産であるという点)を理解していないのでしょう。お祭りの道具としてだけ見れば、祭りを行う人たちが盛りあがればいい、ということになってしまいますから。
私は狛犬の研究を35年続けてきましたが、狛犬もそういう扱われかたをするので、同じ落胆を味わいます。

 2 扱いが雑

彫刻があちこち欠けている、破損したまま修復されていないことが残念でした。5年前にも破損が気になるという報告があるので、ここ数年で破損したものではないのかもしれませんが、今年も、小鳥の彫刻にひょいとものを引っかけてハンガー代わりにしていたり、無造作に高覧に手をかけたりする様子が見られました。
彫刻屋台は精緻な芸術作品であるという認識を徹底させてほしいものです。壊れたら交換すればいい、とはならないのです。
また、それでも壊れることは避けられないでしょうから、欠けたりした場合は、すぐにその破片を保管し、原型が分かっているうちにきちんと修復することが大切です。破片が紛失すると修復は一気に難しくなりますし、お金もかかります。
破片が残っていれば、今は性能のいい接着剤や補修剤がありますので、プロに任せればほとんど元通りに修復できます。

 3 PRが下手(というかする気がない?)

祭りなんだから、自分たちが楽しめればそれでいい……というのではダメなのです。
主役は彫刻屋台という芸術作品、文化遺産であり、自分たちはそれを守っていくのだ、という発想の転換が必要です。
文化財を守っていくためにはお金と技術が必要です。そのためには、より多くの人に知ってもらい、文化財としての価値を周知させることが必須です。
「自分たちだけのお祭り」で終わっていたからこそ、お金がなくなると同時に祭りもできなくなり、屋台はしまわれたままになってしまったわけですから、甦らせた以上、世界中に存在を知らしめて、「これはすごい」「実物を見てみたい」「なんとかこれを長く守り続けなければ」という気持ちを共有してもらうことが絶対に必要です。
残念ながら、県や市にはそうした認識が薄いようです。地元の人たちの意識改革や努力だけでどこまでできるかは分かりませんが、とにかく外に向かって働きかけていきましょう。そうしないと、せっかくの文化財を守れなくなります。
この種のものは、日本人よりもむしろ外国人(特に欧米人)が強い関心を持ってくれる可能性があります。浮世絵が大衆文化として日本国内であまり評価されなくなっていたのに、欧米での評価が高くなって、改めて芸術として認識されるようになったことを思い出してください。
東照宮周辺には絶えず外国人観光客の姿がありますが、鹿沼や今市の屋台祭りで外国人観光客の姿を見ることは稀です。英語版のWEBサイトを作るなどして、海外に向けての情報発信もするべきです。
ちなみに鹿沼では英語版のパンフレットもありました。

 4 祭りの運営方法・形態に工夫・改善を

鹿沼のぶっつけ秋祭りは、伝統を重視するあまりに住民への負担が増えて、運営がどんどん困難になっているようです。
稚児さんの行列などは、炎天下、一日中あの衣装で歩かされる子供にとっては苦行以外のなにものでもないでしょう。短時間にして負担を軽減させたほうがいいと思います。
今市の屋台まつりは、それに比べるとだいぶ緩い感じで、見学するほうも気が楽なのですが、見せ方、楽しみ方を工夫し、合理的に楽しめるようにすることは可能だと思います。
たとえば「ぶっつけ」にこだわって、1日に何度も繰り返していますが、回数を減らしてもいいと思います。
また、狭い屋台の中で演奏するだけというのは大変ですから、オープンステージで囃子方がグループ別に思いきり演奏を「ぶっつけ合う」見せ方とか、別ステージで囃子方とジャズのセッションとか、現代風に広げていって、一日中街の中を歩き回っていても飽きないような構成・演出は可能でしょう。
屋台は無理に長い距離を移動させる必要はなく、今年のように、駅前通り(ここは普段から人がほとんど行き来していないけれど、道幅はとても広いのでうってつけ)に固定していていいと思います。かましん前の通りは交通量が多く、規制すると大変なので、使わないほうがいいでしょう。
歩道には別イベントを展開するなどして、今市の商店街全体がイベントに参加できるような形にすれば、外からももっと人を呼べるのではないでしょうか。

 5 祭りの日以外にも彫刻屋台を観光資源として活用

これは鹿沼もそうなのですが、彫刻屋台は祭りだけのものではなく、その存在自体に芸術的、文化財的価値があります。
彫刻の細部までじっくり見られるような展示を通年できるようにすべきです。
鹿沼では、屋台のまち中央公園に3台(銀座一丁目、銀座二丁目、久保町)、仲町屋台公園に1台(仲町)、市の文化交流館に年代わりで2台、木のふるさと伝統工芸館に1台(石橋町屋台)と、合計7台は通年、見学できるようになっています
今市ではこうした設備が皆無で、未だに今市の人たちでさえ彫刻屋台の実物を見たことがないという人がたくさんいます。
これでは外に向かって知ってもらうこともできません。
なんとか予算を捻出してもらい、彫刻屋台の収蔵庫を通年見学可能な硝子張りにするなどすべきです。
各収蔵庫を見学して回りながら、周辺のお店で飲食や買い物を楽しめるように散歩ルートを作り、ガイドマップも配る。
長い目で見れば、これはちゃんと見返りのある投資だと思います。


……以上、よそから来た「事情を知らん者」の戯言と反感を買うことを承知の上で書かせていただきました。
これだけの文化遺産を今のまま中途半端にしておくのはもったいないですし、先人たちに対しても申し訳ないと思います。
まずは、「今市の彫刻屋台」を一人でも多くの人に知ってもらうこと。
私は東照宮の三猿や眠り猫にはそれほど感動しませんが、彫刻屋台の彫刻群には本当に心揺さぶられました。
最期に、各屋台の彫刻群をもう一度見てください↓

住吉町屋台


春日町一丁目屋台


春日町二丁目屋台


相生町屋台


小倉町一・二丁目屋台


小倉町三丁目屋台


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