(1)はこの円柱の上の部分だけの話になっている。つまり、平面だけで解決できる。
小学校でやった(今もやるのかな?)「時計算」に似ている。……どれどれ。
(1)の①は、小学校の算数的に書くとこんな風になるだろう。
「周囲が12cmの丸い蓋があります。この縁のスタート地点Aからアリが毎秒2cmの速さで蓋の周縁をぐるっと回り、10秒後に止まりました。この10秒の間に、出発点のちょうど正面の地点を2回通過しました。2回目に正面地点に来たのは何秒後で、そのとき何cm動いたことになるでしょうか?」
……ようするにこういう問題だ↓
「線分APが円Oの直径となる」⇒出発点からいちばん遠い地点を通る⇒
「出発点のちょうど正面位置を通過する」と分かれば、難しい数式を持ち出すまでもなく、感覚的に正解は出る。
周囲12cmで毎秒2cm動くのだから、1周は6秒かかる。10秒後に止まったのだから、1周と3分の2動いたわけだ。ここまでは数学でもなんでもないし、難しい計算もいらない。
で、正面の地点は6cm移動した地点だから、通過するのは3秒後と9秒後だ。だから2回目は9秒が答え。
問題ではこのことを「図2のグラフ上で、2回目に円Oの直径となる、時間と進んだ道のりを表す点の座標を求めなさい」と「数学の言葉」で問うている。
こういうことですね↓(赤い点線が2回目に出発点の正面に来るポイントを表している)
y軸の点はスタートから6cmの場所、x軸は9秒後だから、
x=9,y=6 が答えということになる。(座標って、こういう表し方でいいんだっけ?)
……なんだあ、超簡単じゃん。
さすがにほとんどの生徒は(1)の①は答えられたに違いない。
(1)の②は、「図2で、xが6以上10以下のとき、つまり2周目に入って10秒後に止まるときまでの間のy(スタート地点からの距離)をx(スタートしてからの時間)で表しなさい」という問題だ。
これも簡単なことで、毎秒2cmで動いているのだから、基本はy=2x である。
で、y(出発点からの移動距離)は6秒でゼロリセット(出発点に戻ってきてゼロになる)だから、2周目に入ったときは1周の時間である6秒の分経過時間(x)から引けばいい。つまり、xを「x-6」にすれば2周目になる。毎秒2cmは変わらないから、xの代わりに(x-6)を入れて y=2(x-6) 。カッコを外すと、
y=2x-12 だ。
例えば2周目に入って1秒後(=出発して7秒後)であれば、y=2×7-12=2 で、出発点から2cmということだ。止まったとき(10秒後)であれば、y=2×10-12=8 で、8cmのところ。……うん、合っている合っている。
……と、ここまでは、シンプルな話を数学の言葉(数式)で表してみよう、ということだから、数学の問題としては基礎の基礎。算数から数学へようこそ、みたいなイントロダクション的問題で、とてもいい問題なんじゃないだろうか。
次、いよいよ超難問と言われている??(2)に挑戦。
「線分PQが線分ABと重なってまったく一致するときは、線分PQと線分ABは平行と考えないものとする」……これはこの出題においての平行の定義を念のため断っただけの一文だから、読み飛ばしてもかまわない。出発地点にどちらもいるときは「平行」から除外するよ、ということね。
①a=3 とし、点Qが最初に点Bを出発してからの時間をx秒、点Qが点Bに戻るまでの残りの道のりをy cmとする。例えば、x=1 のとき、y=9 である。
……「a=3とし……」っていうのは、点Qは毎秒3cmで進みますということだ。で、方向は点Pとは逆方向に進みますよ、と。
さっきのアリは毎秒2cmで動くのだから、今度の毎秒3cmのやつはテントウムシにしてみるか。テントウムシは毎秒3cmで12cmの円周を回るのだから、1周4秒かかる。アリよりちょっと速い。
x秒後には3x cm進むから、残り(y)は12-3x cmだ。1秒後なら12-3で9cm残っていますよ、ということを言っている。よし、分かった。
こういうことですね↓
で、
問①の(ア)は、スタートして4秒までの間のyとxの関係式を表せ、という問題。
これは簡単。y=12-3x なのだから、きれいに書けば
y=-3x+12 ですかね。
どっちがきれいかは40年以上前から数学をやっていない僕としてはよく覚えていないのだが、確か、y=ax+b という形が一次関数の基本だったように思う(……だよね?)。だから、多分、これでいいんじゃないかしら。
①の(イ)は、「点Pが最初に点Aを出発してから、4回目に線分PQと線分ABが平行になるのは何秒後か」という問題。
これは言い換えれば、さっきの
アリとテントウムシが同じ蓋の円周を逆方向にぐるぐるっと回るとき、4度目に「すれ違う」時間は何秒後か、ということだ。
円柱とか線分とか平行といった
三次元的な表現を全部二次元に言い換えればそういうことになる。
一種の「旅人算」ですね。
ただ、アリもテントウムシも10秒後には止まるのだ。アリは最初に見たように、1周6秒だから、10秒で1周と3分の2動く。テントウムシは1周4秒だから、10秒後には2周半している。
で、「すれ違う」というのがちと面倒な気もするのだが、おっと、待てよ。この一つ前の問題に親切にもヒントが出ているではないか。
「点Qが点Bに戻るまでの
残りの道のりをycmとすると」という部分。
テントウムシにとっての「残りの道のり」は、逆方向に進んでいるアリにとっては進んでいる道のりだから、これが一致するときがすれ違うときってことになる。
こう考えればいいんですよ、と教えるために、この問題の作者はわざわざ1つ前の設問でyを「残りの道のり」にした式を出させているのだ。実に親切な人ではないか、この問題の作者は。
これをグラフで表すと、こんな感じになる↓
黒の直線がアリで、緑の線がテントウムシだ。ピンクの○で囲った部分でアリとすれ違う。なるほど、確かに10秒後に両方が止まるまでの間に4回すれ違うことになる。
文系の僕としてはここまでが精一杯。
では、とりあえずテントウムシが最初に1周するまでにアリとすれ違う時間を考えると、この前の設問で出した y=-3x+12(テントウムシ) と アリの y=2x を並べて、yが一致したときのxが答えになるはずだ。
-3x+12=2x だから、5x=12 x=12/5 つまり2.4秒後に最初にすれ違う。
次は2回目。
グラフをよく見ると、テントウムシの2回目の出発点は4秒後で、そこから最初と同じ下降線を描くことになる。この線をy軸まで伸ばしていくと12の2倍の24のところで交わるはずだから、式を書くなら、
y=-3x+24 だ。これと1回目のy=2x(アリ)をイコールで結ぶと、2x=-3x+24 5x=24 x=24/5 で、4.8秒後だ。
3回目。
テントウムシはまだ2周目の途中で、今の y=-3x+24 のまま。しかし、アリは1周終えてゼロリセットされている。最初の設問で問われた6秒後から10秒で止まるまでのアリの式は y=2x-12 だった。これをイコールで結ぶから、-3x+24=2x-12 36=5x x=36/5 で、7.2秒後だ。
4回目。
テントウムシは3周目に入っている。y=-3x+36 だ。アリは変わらない。y=2x-12。これをイコールで結んで、2x-12=-3x+36 5x=48 x=48/5 で、9.6秒後。
……ほんとかしらと、グラフと照合してみると、大体全部合っていそうであるから、合っているだろう……というのが文系人間の解答方法というか確認方法。
いよいよ最後。
「点Pが最初に点Aを出発してから7秒後に、線分PQと線分ABが、3回目に平行になるようなaの値を求めよ」
……
「アリが出発してから7秒後にテントウムシと3回目のすれ違いとなるには、テントウムシは秒速何cmで動けばいいか」、ということだ。
すでに、3回目にすれ違うのが7.2秒後だと分かっているから、この7.2秒を7秒にちょこっと修正すればいい。
3回目にすれ違うときの式は、アリはy=2x-12 だった。テントウムシはy=-3x+24 だったが、この3xの3(毎秒3cmの3)をa(毎秒a cm)にして、x(経過時間)が7(秒)になるときのa(秒速)を出せばいい。
そのように代入すると、14-12=-7a+24 だから、-7a=-22 a=22/7 つまり、3.1428571428571428571428571428571 ……ほぼ円周率に同じ。
おお~、美しい問題じゃないか。
……これって、超難問というよりは、とてもウィットに富んだ、お茶目な、そして数学教師の愛を感じさせる問題だと思う。
円柱も平行も一種の「引っかけ」というか、数学的な表現に変換されているだけで、基本は時計算とか旅人算。
y=axという一次関数さえできれば、誰でも解ける。しかも、「数学的表現」を一般的な意味合いに読み替えて直観的に把握する能力も問われている。
つまり、数学とはどういう学問なのか、その精神を知らせることが教育ではないのかというテーマを表現している。しっかりした教育哲学を持った人が作った問題だと思う。
頑張れば、数学をまったく知らなくても、旅人算の応用で、小学生の算数でも解けるかもしれない。でも、算数で解くには(2)以降はとてもやっかいそうだ。
数学って、一見難しいように思えても、噛み砕いて考えればどうということのないことも多いんだよ。しかも、一度数式を作ってしまうと後はあてはめるだけで簡単に答えが出てくるから便利なんだよ、ということを教えている。
教科書の例題を丸暗記して定期試験で点を取るタイプの生徒は「想定外」だと思いこんで面食らうかもしれないが、数学が苦手な生徒でも、頭を使えば必ず解けるという意味において、とてもいい問題だ。
ちなみに僕は高校生ですでに数学を捨ててしまい、大学は数学が入試科目にない私立文系のみを受けた。
実は、この問題を解いているときも、y=ax+b なんて忘れていたし、このaがマイナスになるとグラフが右下がりのグラフになるという超基本的なことさえすっかり忘れていた。問題を解きながら、そういえばそんなことを教わっていた気がするなあ……という程度の記憶がゆるやかに甦ってきた。(ちょっと嬉しくなった)
そんな僕でさえ、考えれば解けるのだから、ましてや現役で数学を学んでいた中学生が解けないはずはない。
解けない生徒が続出したというのだが、それを知ったこの出題者は悲しんだだろうな。ずっこけちゃったかもしれない。おいおいおい、勘弁してくれよ、きみたちは中学3年間、数学というものをどのように考えてきたのかね、と。
この問題を見て、考える前に泣き出すだとか、この後の科目を投げちゃうなんていうのは、数学の力がどうのこうの以前に、人間の芯の強さとか、根性とかが足りないわけで、そっちのほうが問題だと思う。
入試を楽しむくらいの力量、余裕がなければ、これから先の人生、いっぱい大変なことがあるんだから、やっていけないよ。……と数学で挫折した受験時代を送ったおじさんは言いたい。
……あ~、何十年ぶりかで楽しませてもらった。この問題の作者に感謝!
もしかして、この問題の作者は、
ヤマゲン先生みたいな人かもしれないなあ。
(追記)
//県教組では、現行の学習指導要領を逸脱していると判断し、15日になって県教委に抗議し、外部評価を行うよう申し入れた// なんて記事まで出てきた。
バッカじゃなかろか。自分で評価できないから外部に評価してもらえ、ってこと?
はい、だからここで「外部評価」しましたよ。かつて数学で落ちこぼれたおっさんが。
そもそも「試験」というのは、考える人と考えない人、努力する人としない人を見分ける手段なのであって、三度の食事のように、みんながみんな手に入れられなければいけないようなものではないのだ。
「想定内」の例題を解く要領だけ覚え、自分の頭で考える力を養ってこなかったような人間が出世する世の中だから、放射能ばらまいて平気な顔していたりするんだよ。
学者バカ、官僚バカ、バカ政治家だらけにしたのが今の受験システム、試験の内容だってことをしっかり反省しなさいよ。例題丸暗記で入試問題が解けるようでは、自分で考えず、言われた通りにしか動けない、動こうともしない、小ずるい人間、主体性のない人間ばかり育ってしまう。
難しい公式を暗記していなくても、基本的なこと、いろいろなものの考え方、考える習慣を身につけていれば誰でも解ける。しかも、数学というものを知っている先輩が子供たちに数学の意味を伝えたいという「愛」を感じる。そこがこの問題のすばらしいところだ。
それが分からないような教師や役人がいっぱいいる、ということが問題なのだ。日本の将来を暗くしているのは誰なんだ?