「木のふるさと伝統工芸館」のおじさんに教えてもらった「あそこにもある」という場所は、鹿沼市の「文化活動交流館」という名称の施設だった。
WEBサイトには、
//この施設は、美術や工芸など市民の創作活動を展開する“創作工房機能”、歴史的資料や文化財などの展示や情報提供のための“郷土資料展示機能”、芸術文化作品の発表や観賞の場となる“ギャラリー機能”を併せ持ちます。また、障害者の働く場として、市役所1階の「夢未来」と同様の“喫茶コーナー機能”もあります。
皆さんの生涯学習や文化・芸術活動などによる交流事業が活発に展開されることが期待できます。そして、誰もが気軽に楽しく利用できる施設です。//
とある。
いつも行っているビバホームやヨークベニマルがあるショッピングモールのすぐそばだった。
全然気がつかなかった。
教えてくれたおじさんも施設名は出てこなくて「川上澄生美術館の裏」と言っていたくらいだから、市民でもあまり馴染みがないのかもしれない。
広い敷地にはのんびりと子どもが遊んでいた。
で、小雨の降る中、ここかな? と入ると、すぐ右手に、あった、あった。
例によって誰もいない。係員が僕らを見つけて、すぐに広い展示室の照明をつけてくれた(つまり、それまでは照明も落ちていた)。
立派な彫刻屋台が2台。ここは触れられないように仕切り柵があるが、ガラス越しではないので光の反射などはなく、よく見える。
写真を撮り始めると、係の女性が寄ってきてこう言った。
「一応、写真は許可していますが、ホームページなどに載せることはおやめください」
……はあ?
何を言っているんだろう、と、最初は理解できなかった。
彫刻屋台は鹿沼市の所蔵品ではなく、各町内自治会が所有・管理している。
その点をまず確認すると、1年単位で2台ずつあずかって展示しているという。
では、何を根拠に「写真を公開してはいけない」と言うのか?
そもそも鹿沼市はこの文化遺産を全国区に押し上げるために宣伝努力する立場ではないか。WEBに写真を載せるなとはどういう了見なのか。
今まで見てきた展示施設の人たちはみな自治会のボランティアだったが、全員「宣伝してください」と言っていた。写真を撮るのにも「ここからだときれいに撮れます」などと協力してくれた。
みんな、この文化財をもっと広く知ってほしいという気持ちを持っていることがよく分かった。
そうした住民の気持ちを逆なでするかのように「写真を公開するな」と言うのだ。それも鹿沼市が。
驚くと同時に呆れ、腹が立ち、その女性係員にたくさん質問をした。
それは誰の命令か。担当部署はどこか。何人でやっている部署か。責任者は誰か。
……まあ、彼女にしても、上から言われたことを言っているだけというつもりだっただろうから、なぜ自分が詰問されるのかと不愉快になっただろう。
このおっさんは何をムキになっているのかと。
だから、分かるように説明した。
「これは、庶民が権力に屈しないで生み出し、残してきた貴重な文化なのよ」
「その庶民が生んだ文化を、官が『表に出すな』と統制するとはどういうことか」
「文化を守るのは官ではなく、我々みんなの力なのだ。みんながこの文化の存在を知ることから始まるのだ」
「知られないものは、抹殺されても、粗末にされても、気づいてもらえない。みんなが知ることで、なんとか長く、次の世代にも伝えなくては、守らなくてはという意識も芽生える。それを阻害するようなことを文化課が命じるとは、心得違いも甚だしい」
……とまあ、ちくちくと言ったのだが、まあ、彼女に言っても上にはきちんと伝わらないだろう。変なクレーマーが来て困りました、とか報告するのが関の山か。
立派な建物にすばらしい文化財を展示してあるというのに、おそらく鹿沼市民もあまりこのことを知らないのではないだろうか。
もちろん、お祭りのことはみんなが知っているだろうが、お祭りは1日2日限りのこと。普段から、こういう「文化財」がこの町に存在しているということを知らしめることが重要なのだ。
行政に勘違いした人間が多いと、ほんとに不幸なことになる。
おそらく
鹿沼市文化課は、文化を保護するという意味を根本から勘違いしているのだろう。
普段ならここまで腹を立てたり、がっくりきたりはしなかったかもしれない。しかし、福島県が放射能漏れを国よりも先に知っていながら県民に知らせなかったり、SPEEDIのデータを隠したりといったもろもろの経験を経てきたときだけに、僕の身体の中で行政の勘違いぶりに対してのセンサーがかなり過敏になっている。
きっと、役場の中での人員配置が適材適所になっていないんだろう。