2013/04/27

友来る

国連職員のSくんが、奥さんと娘を連れてやってきた。会うのは二十数年ぶり。
記憶が正しければ、最後に会ったのは百合丘の長屋を買ってリフォームし、暮らし始めた直後くらい。(前の)奥さんとまだ赤ん坊と言ってもいい息子を連れてやってきた。
そのときは近所の友人宅に泊めてもらうとかで、我が家には数時間の滞在だった。
忘れ物をしていったので、教えてもらっていたその夜泊まる家というのに届けに行ったら、出てきた女性が玄関に立っている僕を見て「ぎゃ~~!」と大声を出して家の奥に逃げていった。変質者が現れたとでも思ったのだろうか。
そのことがいちばん記憶に残っている。

その後、越後にいたときに電話がかかってきて、ちょうど一時帰国していて、ポール・マッカートニーのライブのチケットが手に入ったから見に行こうと誘われた。
鬱状態に近い時期で、越後からお江戸まで出て行くのも面倒だったので断ったのだが、かなり食い下がられたのを覚えている。
なかなか手に入らないマッカートニーのチケットなのに、なぜ?? と不思議に思ったらしい。
マッカートニーはビートルズ時代の作曲はすばらしいと思う。でも、ミュージシャンとしてはあまり興味がない。

考えてみると、音楽にしても小説にしても、僕は他人の作品をあまり聴いたり読んだりしない。嗜好がすごく狭い。
例えば、中学生のときはサイモン&ガーファンクルにどっぷり浸かっていて、毎日聴いていた。ポール・サイモンのソングライターとしての力はすごいなあと尊敬していた。
でも、なぜか大人になると、ポール・サイモンの作品をまったく聴かなくなってしまった。ソロになってからの作品に感動を覚えなかったということもあるけれど、S&G時代の名作も積極的に聴きたいと思わなくなった。
一度、後楽園球場(まだ東京ドームになる前)にサイモン&ガーファンクルを聴きに(見に?)行ったことがあるが、豆粒ほどの遠くのステージで何か演奏している音が一拍遅れて聞こえてくるという、とうてい音楽を鑑賞する環境ではなかった。
ドラマー(スティーブ・ガッドだったかな?)がシンバルをひっぱたいた音が、一拍遅れで届くのだから、白ける。
そんなものに数千円も出すなんて、馬鹿馬鹿しいと思った。
マッカートニーのライブと聞いて、そのときのことを思い出したのかもしれない。

逆に、ローラ・ニーロが日本に来たときは気がつかなくて、ステージを見損なったことをすごく後悔した。小さめのホールでのライブだったから、じっくり聴きこめただろう。残念だった。
ローラ・ニーロよりポール・サイモンのほうが作品の完成度という意味では上だろうけれど、人間として、ミュージシャンとしてはローラ・ニーロのほうがずっと惹かれる。あのキンキンした歌声は心地よくないし、何がいいのかと問われると答えに窮するのだけれど。

……おっと、話がものすごく脱線した。

下小代、11時37分着の東武線で来た一家を、まずは蕎麦屋・野点庵に案内。
奥さんは蕎麦通らしくて、ものすごく満足していた様子。
その後、生き物が大好きという娘のために、水が入り始めた近所の田んぼを案内した。

タモを持って走り回る父子


遠くから勢いよく走ってくるのでなんだろうと思ったら……


捕まえたトウキョウダルマガエルを見せに来たのだった


娘の写真を撮る友人Sくん


シュレーゲルアオガエルの卵が見つかるかなと思っていたのだが、まだ早いようだった
こういう場所に穴を掘って、その穴の中に白いメレンゲ状の卵塊を産みつけるのだが…


この田んぼはすでに田植えを終えていた。まだ水も入れていない田んぼが多い中で、気が早い


その後、人丸神社の狛犬も案内して我が家に


お茶を飲んだ後、散歩に出たところで、ご近所の渡辺さんちになんとなく寄ってみる。ひとつ上の双子の娘さんたちとたちまち仲よくなって走り回っていた。

のぼみ~は見知らぬ人に対しての対応が全然違う。
み~は誰にでもすぐに寄っていく。のぼるはとりあえず警戒して別の部屋に行って引きこもる。
5歳の娘さんがしつこくかまうのに、み~は怒りもせずによくおつきあいしていた。子守りネコ。

奥さんが30代で娘さんは5歳。考えてみると、明日58になる僕から見れば、娘と孫くらいの年齢だ。
先日も、家まで取材に来た地元新聞社の記者が30歳だというので、考えてみると息子がいればこのくらいなのだな、と、改めてびっくりしたのだが……。

Sくんのことは、⇒ここなどに紹介されている。

僕とは上智大学時代に知り合った。
知り合ったというよりも、一方的に知り合わされたという感じだった。
ある日、大学の図書館で楽譜を書いていたら、全然知らない学生がつかつかとやってきて、「へえ~、きみ、音楽やっているんだ~。ぼくも音楽は好きでね……」とニコニコ話しかけてくる。
なんだこいつは? と、半ば呆気にとられながらも、それからは彼のペースに引き込まれっぱなしだった。
「きみにぜひ会わせたい人がいるから、今からきみの家に連れて行きたいんだけど、いいかな」なんてこともあった。
彼には全然似ていないカメラマンの弟がいて、その弟もちょくちょく鐸木家(僕は実家から通っていた)に出入りするようになり、その弟の紹介で男女3人組のコーラスバンドがうちにやってきたり、兄弟揃って人見知りしないというか、世話好きというか、人間関係の構築にものすごく積極的でオープン。人見知りの僕にとってはかなりのカルチャーショックだった。

Sくんはてんかん性の持病があり、大学時代にも意識不明になるなどの発作を何度か起こした。以後、薬を常用する生活になったが、薬のおかげで再び動ける身体になったことでいろいろなことが吹っ切れ、大学在学中にインド、ネパール、東南アジア諸国を2年間放浪した。
その旅で、世界には平和とはほど遠い国・地域がたくさんあること、生活格差の凄まじさなどを痛感。貧しい国でぎりぎりの生活をしているのに笑顔を忘れない人たちのこと、その人たちが自分を助けてくれたことに感じ入り、自分にできることはないか、と、難民救援活動の道に入っていった。
そしてJVC(日本国際ボランティアセンター)を立ち上げて、初代の総括責任者に就任。その後、アフリカに向かい、JVCソマリア代表に着任。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に入局して、ソマリアの後もスリランカ、カンボジア、旧ユーゴスラビア、パキスタン……と、戦地や戦地周辺地域で難民救援活動を続けてきた。
アジアを放浪した後に人生が変わるというのは、獏原人村で大工をやっていた愛ちゃんにも似ているけれど、Sくんは国連という大きな組織(……といっても、彼に言わせれば、日本の国会議員が700人以上いるのに、国連職員はわずかに500人しかいない)に入って、いろいろなしがらみを抱えながらも、個人ではできない最大限の有効な活動をめざしたあたりが違うかもしれない。

僕は、自分が可愛くて、好きで、自分の欲望を満たしたくて、その手段や場としての「社会」を相手にすることに疲れているけれど、彼は逆に、社会(世界)が愛しくて、好きで、社会を変えるための活動を有効化するために組織に入っていった。

僕は、世の中のおかしなこと、理不尽なことに対して「それはおかしい」「ここがこういう風におかしい」と言い続けているが、彼は理不尽なことを見て、なぜそんな理不尽が起きるかを分析するよりも、そこに飛び込んでいって、少しでも犠牲者を減らそうと身体を動かす。僕にはとても真似できない。(いや、ほとんどの人は真似できないと思うが)

そんな彼でも、僕の目には、自分の「個」をうまく手懐けられなくて悩み続けているように映る。
そんな二人が、なぜか今もこうしてつきあいを続けているのだから、人間関係というのは不思議なものだ。




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