家庭に入れば自己実現しろと言われ、仕事していれば家庭を疎かにしていると言われる。どっちを選んでも後ろめたく、どっちも中途半端になって自己嫌悪に陥る。その許されない息苦しさ。ダブルバインドを中学生くらいから有言無言で家庭や学校や職場で強制され続けると、自分が「そのままでいい」と思えなくなる。深い闇が生まれるんです。
アンがおしゃべりし続けて自分を主張し、だんだんとその存在を許されることでメローになっていく物語が少女に愛されたのは、存在を受け入れてもらい、自分を肯定できる理想が描かれていたからなんですよねえ。
アンの物語がアニメ化されたり、映画化されたりしたときに、アンが最初から、なんの屈託もない、天真爛漫なコとして出てくると、
(なんか、ちがう)
としっくり、こないものがある。
アンが現れて、周りの大人たちがアンに感化されてゆく―――という、どうやってもイイコちゃん物語になるのは、さびしい女の子をしらないオジサンたちが、アニメや映画を作るせいだなあと思ってしまう。
『赤毛のアン』は、おしゃべりすることでしか自分を主張できなかった、器用そうにみえて、ほんとはすごく不器用な女の子に、世界が少しずつ扉をひらいて、優しくなってゆく物語なんです。ほんとはね。」
氷室冴子『マイ・ディア―親愛なる物語―』より
「あっち側の人とは仲良くできなくても、仕方がない」というのは、徒党を組んでゴシップに興じるご婦人たちに対して、アンが切り捨てているところで、「夫が死んでも私は生きていくでしょ」というのは、結婚によって男とはパートナーシップを組むけど、男にすべて依存している人生じゃないってこと。だそうだ。
……作家として活躍する一方でモンゴメリは、牧師館の主婦として教区の人びとのために働かなければなりませんでしたし、二人の息子の母にもなっていました。毎日が多忙をきわめ、心身ともにつかれはてることも、しばしばあったようです。……という一節もある。
そんなモンゴメリに生きるよろこびをよみがえらせてくれるのは、いつも自然の美しさでした。ひとり戸外で時をすごすと、とても満ちたりた気持ちになれました。
また、モンゴメリは写真を撮るのも好きでしたし、天文学にも興味をもっていてました。双眼鏡を手に夜空の観察をしたりして、宇宙人の存在も信じていました。1920年代にすでに、原子力について言及している文章を書いているのには、びっくりしてしまいます。
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