2014/12/09

小松利平・小松寅吉・小林和平の人物像に迫る

12月6日のトークショーで語りきれなかったことを、気持ちが薄れてしまう前に少しここに書き留めておきたい。

利平・寅吉・和平という3代続いた名石工の作品をずっと追いかけてきたわけだが、彼らの作品の魅力を知るにつけ、彼らの人物像にとても興味を抱くようになった。
自分が還暦を迎え、死を意識する毎日だから、かもしれない。
一生をかけてある価値を信じ、追い続け、成し遂げたこと、捉まえきれなかったもの、そして、価値観を他人と共有できないことの孤独……そんなものを、3人の石工に重ねて見てしまうのだ。

彼らはそれぞれ、アーティストとしてのエゴと孤独を抱いていた。そしてそのエゴと孤独の質が少しずつ違う。

簡単に書けば、

利平:


寅吉:


和平:


血液型人間学が大嫌いな人は聞き流してほしいが、なんとなく利平はAB型、寅吉はB型、和平はA型……というイメージがある。

以下、少し具体的に説明してみたい。

孤高の天才・小松利平


小松利平は文化元(1804)年11月晦日、高遠の石工一家に生まれた。
高遠藩は農家の次男以下を石工として育てて各地に出向かせ、「外貨」を稼ぐという政策をとっていたが、利平の父親・小松利右衛門(享保14年(1729)~寛政2(1790)・享年61)も石工だった。静岡市葵区小河内(旧清水市)勝軍地蔵祠 には、延享3(1746)年1月「高遠 小松利右衛門」の銘が残っている。1746年、利右衛門はまだ17歳だから、若いときからどんどん旅石工として藩の外に出されていたことが分かる。
利平も旅石工として各地を回ったはずだ。そして流れ着いた南福島の地で地元の女性とできちゃった婚をして定住を決意する。
これは藩の掟を破ることなので、命がけの決断だった。

利平が高遠藩の「石切目付」に捕まって藩に戻されることなく福島で一生を過ごせたのは、周囲の人たちの協力があったからこそだろう。「利平さんを守れ」という意識で地元の人たちがまとまらなかったら、利平は身を隠せなかったはずだ。
それだけ、利平には人間として愛される資質があったと思われる。

↑これは八槻都々古別神社の狛犬。天保11(1840)年。利平はこのとき30代半ばで石工としては脂がのりきっていた時期だ。
この狛犬がどれだけとんでもない作品か、おそらく狛犬を数多く見ていない人には分からないと思う。
まず、阿像と吽像の顔がまったく違うこと。そしてどちらの顔も、当時の狛犬の類型にあてはまらない、オリジナリティにあふれたものだということが驚きだ。


左は八槻都々古別神社の狛犬・阿像  右はバリ島のお面
僕はこの狛犬を最初に見たとき、東南アジア系の顔にしか見えなかった。中国でもない。しかし、天保年間に東北の地に流れ着いた石工が東南アジアの習俗・文化を知っていたとは思えない。利平は一体どこからこんな顔をイメージできたのだろう。
吽像の平べったい顔もすごい。江戸風でも浪花風でもない。もちろん、狛犬文化初期の越前禿型や出雲型などでもない。
こんな個性的な顔の狛犬が突然東北の地に出現するなんてことがありえるのだろうか? 天才的な美的才能と自由な精神を持ち合わせた石工でなければ、こんなものは彫れない。

さらに驚嘆するのは沢井八幡神社の波乗り兎像だ。↓

波乗り兎像を見る吉田さんと円丈師匠


耳が折れてなくなり、プレーリードッグのように見えるが……


元はきっとこんな感じだったのだろう



耳を立てた形で彫り上げるためには相当大きな石が必要になる。それを彫る技術もすごいが、兎の身体の丸みや顔のリアルさと愛らしさ。これだけ魅力的な兎像は見たことがない。
しかもここでも左右の兎が乗る波の形を変えて、阿吽につながるアシンメトリーな美意識を実現している。

これはものすごいことで、弟子の寅吉や孫弟子の和平にも真似できなかった「美の領域」に踏み込んでいた石工だったことが分かる。

利平は実子の彦蔵ではなく、養子の寅吉に小松家の石工が代々継いできた「布」の字を入れた「布孝」という名前を与え、後継者にした。
血にとらわれず、実力主義で後継者を決める自由・平等の精神。そして自らは決して名乗らず、どうしても名前を求められたときは「流れ石工の三日清」などと洒落たりしていること(当地では「三日清六」というのはろくに仕事もせずに酒ばかり飲んでいるような男、の意味だそうだ)、二つとして同じような顔の狛犬を彫っていないことなどを考え合わせると、本当の天才だったのだろうと想像できるのだ。

利平がいなければ寅吉も和平もなかった。それだけでも利平という人間のすごさが分かる。しかし、淡々と生き抜いたように見える利平の「アーティストとしての孤独」はどれだけ深かっただろうか。
どれだけすごい作品を作っても名乗れない。自分は「いなかった」ことにする。その孤独もだが、彼の芸術性を本当に理解してくれる人間が周囲にどれだけいたかも疑問だ。弟子の寅吉でさえ、利平の本当の凄さを理解することは難しかったのではないかと想像してしまうのだ。それこそが、自分が「そこにいない人間」として生涯を過ごした孤独以上の孤独だったのではないだろうか。









神の鑿
神の鑿 (たくき よしみつ) 


江戸時代天保年間、高遠藩を脱藩して南福島・福貴作集落に身を潜めて定住した謎の天才石工・小松利平。その利平の弟子・小松寅吉布孝と孫弟子の小林和平。3代続いた名石工が残した驚異的な石彫刻作品の数々を、それぞれの人間ドラマを推理しながら紐解いていく。

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