私が広島で原発の問題にもろにぶつかったのは、一九五五年(昭和三十年)の一月末であった。
一月二十八日(金)の日記
「・・・夜、原水禁広島協議会常任理事会。・・・イエーツ米国下院議員が広島に原子力発電所を建設すべしとの提案をなした、との報道が今朝の新聞・ラジオで行なわれたのでこれに関して熱心な討議。結局、市民に問題点を明示する声明書を出すこととなる。起草委員は渡辺、森滝、佐久間、田辺、迫。」
一月二十九日(土)の日記
「中国新聞に昨日、私がただ一言『うかつに受け入れてはならぬ』と原子力発電所について記者の問いに答えたことが大きくとりあげられていた。午前、渡辺文学部長の部屋に起草委員が集まり、原子力発電所問題についての声明書をつくり、午後、報道関係の人々を集めて発表。」
一月三十日(日)の日記
「昨日の声明書が各新聞の三面に報道された。米国にもはっきり伝えられるであろう。・・・・」
この声明の原文はいま探し出せないのが残念であるが、中国新聞に載った声明要旨は以下の通りである。
原子力発電所装置の中心となる原子炉は、原爆製造用に転化される懸念がある。
原子炉から生ずる放射性物質(原子核燃料を燃焼させて残った灰)の人体に与える影響・治療面の完全な実験が行なわれていないため重大な懸念がある。
平和利用であっても、原子力発電所の運営に関してアメリカの制約を受けることになる。
さらに、もし戦争が起こった場合には広島が最初の目標になることも予想される。
原爆を落とした罪の償いとして広島に原子力発電所を設置するということもいわれているが、われわれは何よりも原子病に悩む数万の広島市民の治療、生活両面にわたる完全な補償を行なうことを要望する。
原子力発電所装置の中心となる原子炉は、原爆製造用に転化される懸念がある。
原子炉から生ずる放射性物質(原子核燃料を燃焼させて残った灰)の人体に与える影響・治療面の完全な実験が行なわれていないため重大な懸念がある。
平和利用であっても、原子力発電所の運営に関してアメリカの制約を受けることになる。
さらに、もし戦争が起こった場合には広島が最初の目標になることも予想される。
原爆を落とした罪の償いとして広島に原子力発電所を設置するということもいわれているが、われわれは何よりも原子病に悩む数万の広島市民の治療、生活両面にわたる完全な補償を行なうことを要望する。
この声明書を見た浜井市長は、困惑と失望を隠さなかった。出会いがしらに私に言った。「新聞であの声明書を見たときは『しまった!』と思いましたよ。
「中国新聞の招請で原子力平和利用博覧会の下見をする。評を求められて、原子炉のいわゆる『灰』(放射性物質)の処理法法が示されていない点を指摘す」
ともかくも広島原子力平和利用博覧会は、アメリカ文化センター、広島県・市、広島大学、中国新聞社の共催で五月二十七日に華々しく開催し、反響は大きかった。会期終了後、人気を呼んだマジック・ハンドや、あらゆる型の原子力発電所や原子力船の模型は、そのまま原爆資料館に寄付され、何年間か資料館に陳列されていた。原子力は戦争に使われたらこんなに悲惨だが、平和利用の未来はかくもすばらしい、ということがひとめでわかるように。
しかし、あのとき、私が原子炉の「灰」の処理方法が示されていない、と評したこの問題は、四半世紀後の今日も未解決の「放射性廃棄物の究極的処理」の問題として人類に迫ってきているのである。
巨大エネルギー、巨大開発、巨大生産、そして巨大消費という形態をとる核時代の産業文明は、いまこそその価値観を一大転換しなければなりません。価値観の転機とは何か。一言でいえば、すべて巨大なるものは悪であり、のろわれたるものである、いと小さきもの、いとつつましきものこそ美しいものであり、よいものであるということであります。
核兵器を絶対否定してきた私たちは、平和利用をも否定せざるをえない核時代に突入しているのであります。『核兵器絶対否定』を叫んできた私たちは、いまやきっぱりと『核絶対否定』の立場に立たざるをえないのであります。『平和利用』という言葉にまどわされて『核絶対否定』をためらっていたら、やがて核に否定されるでありましょう。
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