新唱歌シリーズ　第１回まとめ

唱歌の名作『あかとんぼ』の歌詞、「おわれてみた」のは「追われてみた」でも「追われて見た」でもなく、「負われて見た」で、背負っているのは口減らしで売られてきた少女。その少女が15歳で別のところに働き手として「嫁に行く」という歌だった、という話から出発した「新唱歌」シリーズというアイデア。
明け方に思いつくことはろくでもないことが多い。それでも、いまだにあがきながら続けているのはなぜ？

……という能書きはとりあえず後回しにして、現時点でのまとめをどうぞ。

この5曲はすべて最近作ったもの。

スコアエディタソフトというものを使うようになって（最初はFinale Notepad　次に　Muse Score　いずれもフリーソフト）、曲作りの環境が変わった。
駄作だと思っても、とりあえずは頭に浮かんだモチーフを最低限の小節数書き留めて保存するようになった。
今まで何十年もの間、メロディを書き始めても、「こりゃ駄作だな」と思った時点で即、捨てていた。
後から見直して完成させられるかもしれないと、譜面に書き留めたモチーフもあるが、その譜面がどこかにいってしまったり、二度と見直す気持ちが起きなかったりして、結局は何もしなかったのと同じだった。原稿用紙時代に書いた小説がいくつか紛失したり忘れられたままになっているのと同じだ。

ところが今は、とりあえずパソコンのHDDの中にメロディモチーフが溜まっていく。呼び出してクリックするだけですぐにそのメロディを音で確認できる。
こんなの作ったのか……なんか違うな……ここはこう直そう……と、その場ですぐにまた作業が始められる。これは文章を書くときの推敲作業にあたる。
テキストエディタで文章を書くようになって（このWEB日記もテキストエディタで書いている）、書く量が劇的に増えたのと同じで、スコアエディタを使うことで、メロディを作るという作業に、よりダイレクトに、より深く向き合えるようになった。

歌詞を作る作業も同様で、昔よりずっと楽に、かつ、ゆるく書くようになった。
いい加減という意味ではない。歌詞は小説や論文を書くように書いてはいけないと悟ったのだ。
ずっと前からそれはそう思っていたが、今はさらに割り切るようになった。

童謡『ぞうさん』は8小節だけの短い歌で、歌詞は6単語しかない。

ぞうさんぞうさん　おはなが長いのね
そうよかあさんも長いのよ

作詞者は　まど・みちお　さん。
Wikiを見ると、この歌はメロディが先ではなく、詩が先だったそうだ。「1948年に書かれたものに、1953年に團伊玖磨が曲をつけてNHKラジオで放送された」という。
つまり、「ぞうさん」「お鼻」「長い」「そうよ」「かあさんも」というたった５つの言葉からなる短い詩で、まどさんははっきりとひとつのテーマを主張したのだ。
「お鼻が長いのね」までは凡人にも書ける。次の「そうよ　かあさんも長いのよ」で、ひとつの主張、世界観がパッと出現する。これは凡人には真似できない。

「新唱歌」シリーズとして最初に書いてみたのは『もみじ』で、これを仕上げた後、しばらく鬱状態になってしまった。
なんて凡庸なんだ……と。

しかし、簡単にできるわけがないのだ。難しいからこそ楽しまなくちゃ、と思い直した。
今は、メロディも詞も、悩んだら短く、シンプルな解決策を探し、選ぶ。
展開させたい気持ちをぐっと抑えて打ち止めにする。
でも、メロディとしては凡庸な終止になるとどうしようもないから、シンプルな中にも「キレ」を探す。

……と、ぐだぐだ書いているのは凡人。
まもちゃんを見習おう。
ネコもそう言っている。