のぼみ~日記 2015

2015/08/11 

8月が命日の人は多い


ヒストリーチャンネル(スカパー!)で、『原爆の夏 遠い日の少年~元米軍カメラマンが心奪われた一瞬の出会い~』という2時間番組をやっていた。
BS-iとテレコムスタッフの制作。
米海兵隊の従軍カメラマンとして原爆投下後の広島、長崎も撮影していたジョー・オダネル氏が、有名になった「焼き場に立つ少年」のその後を知りたいと日本を訪ねるドキュメンタリー。
9日の長崎原爆慰霊祭で被爆者代表として登壇し「今政府が進めようとしている戦争につながる安保法案は、被爆者をはじめ平和を願う多くの人が積み上げてきた核兵器廃絶の運動、思いを根底から覆すもので、許すことはできない」と、安倍首相の前できっぱりと述べた谷口稜曄(すみてる)さん(86)も登場する。

こういう番組、地上波ではとんと放送されなくなった。ましてや2時間の長尺ものともなれば、BSでも厳しいかもしれない。
ヒストリーチャンネルでは終戦70年記念企画としてさまざまな番組を放送している。その多くはNHKやTBSなどが過去に制作したものだ。もはやこうした見るべき番組を見るためには、視聴料を払わなければならない時代になった。
それにしてもNHKの荒廃ぶりは目を覆わんばかりだなあ。

これがオダネル氏が原爆投下後の長崎で撮影した写真。死んだ弟が火葬される順番を不動の姿勢で待つ少年


トルーマンが散歩の途中で立ち小便し、その後に漏らしたという言葉も証言







コピペデザイナー騒動とビーボコーヒーZ幻のCMソング

2020年東京オリンピックの公式ロゴマークが盗作なんじゃないかという騒ぎがなかなか収まらない。
あの程度のデザインなら世の中にいっぱいあるだろうから、偶然似たってこともあるだろうと、当初は白けてみていたが、ネット上では「これも盗作じゃないのか」「これなんか盗作と言うよりコピペじゃないか」と、次から次へと画像が上がってきて、ネット社会の怖さを実感している。

この業界、パクリは日常的に行われている。パクリというと語弊があるかもしれないが、「真似」あるいは「参考」にすることは、誰もがやっている。
 デザインの作品集などが出版されているが、それらを持ってきて、
「このデザインに似たもの作って」
「このデザインを参考にして、ちょっと変えて」
 といわれることは、よくある。
 それって、パクリじゃん、と思いつつも、真似るのだ。本意ではないが、クライアントの指示、上司のAD(アートディレクター)の指示である。

……と書いているのはグラフィックデザイナーの諌山裕氏
これは別にデザイナーでなくても、広告業界や芸能界、メディアに身を置く人ならみんな経験しているし、知っていることだろう。
今回の騒動がここまで大きくなったのは、莫大な税金がデタラメに使われているオリンピック関連のことだからだ。
あの程度のデザインで大金(しかも原資は我々が払っている税金)と名誉を手にして……冗談じゃない……という怒りや嫉妬がからんでくるからだ。

ネット上にはこんな書き込みが散乱している。
この人は大手博報堂出身スキル、人脈を最大限利用して仕事を獲ていた政治的業者です。 ある程度 実力をつけて企業コンペに臨んでも、競合参加業者リストに「佐野」の名前を見つけたら「ああ・・だめか」って思ってしまう奴なんです。 いわゆる「業界既成スターデザイナー」プロデュースド バイ 博報堂。

フリーのデザイナーとかは、佐野たちの一派をよく思ってないから、全力でつぶしにかかってるんだよな

下請けゴーストの反乱、って気がしないでもない


業界の底辺で超低予算でパクリや「これに似せて」という仕事依頼が行き交うのは日常的なことだが、そこに身を落とすとなかなか這い上がれない。だから、クリエイターたるもの、食うために妥協することと、自分の力をしっかり育て、本物をめざすことのバランスをとりながらいろんなものと戦うことになる。

僕は25歳のときに人生最大のチャンスを棒に振った。
それからの20代後半から30代前半にかけての10年くらいは、底辺でのあがきを嫌というほど経験した。
ある日本を代表する家電メーカーが中国にテレビを輸出する際のCMソングというのを手がけたことがある。
中国では『鉄腕アトム』が大人気で、テレビのCM(そのメーカーのテレビそのものを売るためのテレビCM)に鉄腕アトムを使っているのだが、アトムの映像は買えたが、BGMにあの「空を超えて~♪」というテーマソングは使えないので、似たような雰囲気のインストを作ってほしい、という依頼だった。
あのテーマソングは傑作なので、似せて作れと言われるのは屈辱以外のなにものでもない。でも、どん底だったので、食べるために……と、たえがたきをたえて引き受けた。
ディレクターが自宅の四畳半スタジオまでやってきて、「そこのところ、もう一息似せられない?」と言ってくる。
「ええ~、この音を変えたらモロにアトムのパクリってことになるじゃないですか」
「いいんだよ。似せなければ意味がないんだから。盗作って言われないぎりぎりの線で……」

……こんな悲惨な時代があった。

だから、底辺の仕事をしている人たちが、上からの指示でパクリまくる、今ならコピペもしまくっているのは分かっている。
しかし、当時(80年代)、最前線を走る人たちの中には、しっかり才能も腕もあり、世界に誇れるものを作っている本物もいた。
それが分かっているから、いつかはそういう「才能がしっかり認められる最前線」にもう一度足を踏み入れたいと、底辺での仕事をしながらもあがいていたのだ。
どんなひどい仕事でも、その中で最大限の努力をする。手抜きはしない。プライドを捨てない。どんなに小さくてもチャンスを見出したらつかみ取る努力をする……。
これはそんな時のひとつの記録だ。↓

ビーボコーヒーZという缶コーヒーのラジオCM。
某音楽出版社の人から紹介されたフリーのディレクターという人物が持って来た仕事話。
その人の行きつけのバーで雇われマスターをやっている男性が物真似がうまいというだけで、飲みながら話が盛りあがったのだろう。「誰が聴いてもあの人の曲をあの人が歌っているように作れないか」というしょーもない依頼だった。
テレビCMは別の代理店が入ってきて取られてしまった。そのときの屈辱も相当なものだったが、その後、「予算は一桁違うが、ラジオCMなら残っているからやらないか」……と。
カンパケのCMを作る総予算が40万円と言っていた。
40万円で曲を作り、ミュージシャンを呼んでスタジオで録音し、ラジオCMのカンパケ(完全パッケージ)を渡すというのだから無茶な話だ。
引き受けるにあたって僕は、「じゃあ、ラジオCMだけでなく、最初からフルサイズの楽曲として作らせてください。歌詞は○○節を研究してそれらしく作りますが、メロディは完全なオリジナルでやらせてください。できあがった曲はレコード会社に売り込んでください。そういう可能性を持てないととてもこんなことはできませんから」という条件を出した。
それでいいよ、ということで作ったのが↑これ。

歌っていたのは松尾広一さんといって、僕より少し年上だった。新宿のバーで働いていた。

ラジオCMは完成したが、ディレクター氏はその後、プッツリと連絡を絶って、行方知れずになった。
最初から覚悟の上だったが、僕も松尾さんも、コーラスをやってくれたDanaもノーギャラだった。ミュージシャンたちは多分、5000円か1万円ずつくらいもらえたと思う(そう信じたい)。
そうなってからも、松尾さんとは何度かやりとりして、『笑っていいとも!』の素人オーディションに僕が書いた曲に振り付けをして乗り込んだりもしたが、やがて音信不通になった。

ずっと後になって、この音源を記録として残しておこうと思い立ち、あのときの歌手は誰だっけ……と、過去の手帳の連絡先を探していたら、それらしき名前が出てきた。
駄目元で「松尾広一」という名前をググったところ、驚くような結果が出た。
松尾さんはその後、声優として成功し、自分で声優の事務所も立ち上げて社長業もしていた。それで……くも膜下出血で急逝……? 日付を見ると、亡くなったのはほんの数か月前だった。

この話は以前にAICに書いた記憶があるのだが、探しても見つからないのでもう一度書いてみた。


底辺で悲しい仕事と格闘している人たちは今もいっぱいいる。
でも、本当に悲しいのは、今はどの業界も、トップランナーと言われる人たちが質の低いことを平気でしていること。
リアリティもハートもないドラマを書く脚本家、真実を追わないドキュメンタリー番組制作者、コピペ論文が通用するアカデミズムの世界……。
「あんな風にはなりたくない」と思いながら、メジャーなメディアでもてはやされる作品を眺めなければならないのは辛い。

こんな時代に、どうしたら鬱にならず、心を失わず、さらに先に、さらに上に向かえるのか……日々、考えている。考えては疲れて、日が暮れて……。

それにしても、夏は創造的な頭にならないな。

8月が命日の人は多い。
松尾さんの命日も8月。うちのお袋も8月。
僕はできるなら冬、雪が降る日に死にたい。


☆追記☆
そうそう、今回、YouTubeにUPするにあたり、ビーボコーヒーZの画像を使いたいと思って探したが、なかなかなかった。
動画の最後に使わせてもらった自販機の画像は⇒このブログにあったもので、ブログ主さんにメッセージを送って「どうぞお使いください」とメールで許可をもらってから使った。
こんな時期だけに、一応、書いておかなくちゃ……。








更新が分かるように、最新更新情報をこちらの更新記録ページに極力置くようにしました●⇒最新更新情報



一つ前の日記へ一つ前へ |     Kindle Booksbooks      たくきの音楽(MP3)music      目次へ目次      takuki.com homeHOME           | 次の日記へ次の日記へ



tanupack音楽館  よいサイト 41.st  たくき よしみつの本 出版リストと購入先へのリンク  デジカメと写真撮影術のことならここへ! ガバサク道場


「福島問題」の本質とは何か?


『3.11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ』(岩波ジュニア新書 240ページ)
『裸のフクシマ』以後、さらに混迷を深めていった福島から、若い世代へ向けての渾身の伝言。
複数の中学校・高校が入試問題(国語長文読解)に採用。大人にこそ読んでほしい!

第1章 あの日何が起きたのか
第2章 日本は放射能汚染国家になった
第3章 壊されたコミュニティ
第4章 原子力の正体
第5章 放射能より怖いもの
第6章 エネルギー問題の嘘と真実
第7章 3・11後の日本を生きる

今すぐご注文できます 
アマゾンコムで注文で買う
⇒立ち読み版はこちら
裸のフクシマ  『裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす』(講談社 単行本352ページ)
ニュースでは語られないフクシマの真実を、原発25kmの自宅からの目で収集・発信。驚愕の事実、メディアが語ろうとしない現実的提言が満載。

第1章 「いちエフ」では実際に何が起きていたのか?
第2章 国も住民も認めたくない放射能汚染の現実
第3章 「フクシマ丸裸作戦」が始まった
第4章 「奇跡の村」川内村の人間模様
第5章 裸のフクシマ
かなり長いあとがき 『マリアの父親』と鐸木三郎兵衛

今すぐご注文できます 
アマゾンコムで注文で買う
⇒立ち読み版はこちら



Google
abukuma.us を検索 tanupack.com を検索