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のぼみ~日記 2015

2015/09/15

常総市浸水災害でみんなが勘違いしていること

常総市浸水MAP
早川由起夫教授が作成した常総市の浸水マップ

今回の大雨被害では、各テレビ局がヘリからの空撮映像をずっと流していたが、それが俯瞰的ではなく、「ドラマチックな絵」が撮れる場所に集中していたので、視聴者は「点での視点」しか与えられず、いくつもの事実誤認をしてしまった。


上の画像は、原発爆発直後に放射能汚染地図を作ってネットで公開したことで一躍有名になった早川由起夫教授(群馬大学・地質学、火山学)がGoogleマップ上に作成した今回の浸水域マップ。
上左の赤丸部分が10日早朝に最初に越水した場所。この水が引き金となって浸水域が広がり、テレビでみんなが見ていたあの「アピタ」のあたりも孤立した。
電柱おじさんや犬と一緒の救出などでドラマチックな映像を提供した堤防決壊場所付近はさらに南で、ここが決壊したのは午後12時50分前後。最初の越水からは7時間近く経っていた。

そのへんのことを、ブログ版にまとめたので、それをここでも載せておく。

常総市の洪水被害 ソーラーパネル設置箇所をめぐる情報錯綜のまとめ

時系列でまとめ

9月10日
 ※早朝時点ですでにソーラーパネル設置場所から越水。常総市はその対応に追われる。
 ※テレビでいち早く映し出された決壊場所。多くの視聴者はこの場所がすべての浸水の起点であり原因だと勘違いした。
  ※決壊してから避難指示を出していた。しかも決壊した川の反対側に避難しろと指示していたことで、市の対応の遅れと不適切さに非難が集まる。


(ソース:TBS News i、ツイッター、JCASTニュース など多数)

以前から危険性が指摘されていた


2014年3月下旬 若宮戸地区の鬼怒川沿いにソーラーパネル設置のため横150メートル、高さ2メートルにわたって自然堤防を削った。これでは安全に暮らせないと住民が市に通報、相談。

この地区は人工の堤防がない「無堤防」地帯だったが、もともと小高い山があり、自然の堤防となっていた。土地開発されて徐々に平地にされたが、2014年3月まではまだ自然堤防と呼べるぎりぎりの高さがあった。

2014年5月の常総市定例市議会で、風野芳之議員が鬼怒川沿いの太陽光発電事業について質問。
それへの答弁要旨を抜粋すると、
都市建設部長  「鬼怒川左岸の若宮戸地区は堤防が築かれていない無堤部が約1キロメートルあるが、通称十一面山の丘陵部が自然の堤防の役目を果たしていた。今年3月下旬に住民から丘陵部の一部が掘削されているとの通報があり、現地を確認し、鬼怒川を管理している国土交通省関東地方整備局下館河川事務所へ報告した。当該地区は民有地で、民間事業者の太陽光発電事業により丘陵部が延長約150メートル、高さ2メートル程度掘削されていた。出水対策として、下館河川事務所で検討してもらい、太陽光発電事業者の土地を借りて丘陵が崩された付近に掘削前と同程度の高さまで大型土のうを設置することとし、現在常総市とともに交渉を進めている」

道路課長  「ソーラーパネルは、法令上は建築物ではないので、開発申請の類の届け出は市には出ていない。そのため、市でも把握していなかった」

(ソース: 常総市議事録、J-CAST、朝日新聞、報道ステーション など多数)

  ※常総市はこの場所がいちばん危険だと知っていたために、実際にここを起点として越水したことで相当動揺したのではないか? 上三坂地区などに避難指示が遅れたことについても、最初の越水の対応に追われてしまったため、と説明している。(テレビのインタビュー画面など)
  

「ソーラーパネル設置が原因はデマ」「いや、デマではない」の応酬



テレビで最初に大々的に報じられた堤防決壊現場がソーラーパネルで自然堤防を削った若宮戸地区から4~5km南だったことから「場所が全然違う」「これはデマ」といったコメントがネット上にあふれる。

当初、「越水」と「決壊」の言葉の選択を誤っていた書き込みはあったが、堤防決壊の前にそれよりも北側の広いエリアですでに午前中に浸水、孤立していたことは事実。(「アピタ」の周辺など)

早川由起夫氏が作成した今回の浸水被害状況マップは⇒こちら

ソーラーパネル設置場所はそもそも他より低かったので、「決壊」する前に「越水」し、住民は浸水被害を受けていた。このソーラーパネル設置場所からの越水が下流側での決壊に結びついたかどうか(「誘い水」的に働いたかどうか)を検証することは重要だが、たとえ直接結びつかないという結論になったとしても、「まっ先に水が越えてきた」場所であり、それによって多くの建物が浸水し、人が孤立した現実は揺るぎようがない。

同様の危険性が全国で急速に増加

ウィンドタービン(大型発電風車)やメガソーラー施設が、国の「再生可能エネルギー」推進政策(そこからの電力の高額買い取り)によって、新しい投資話、金儲け目当てで急速に建設されている。
山林の多いこれらの施設は山や林を削って建設されることが多く、全国で地形が変えられ、生態系が破壊され、さらには今回のような自然災害を引き起こす原因を作っている。

<太陽光発電>業者、無許可で危険斜面掘削 和歌山の山林
 土砂崩れの恐れがあるとして「土砂災害警戒区域」に指定されている和歌山県紀美野町の山林で、大阪市の太陽光発電事業者が売電用に太陽光パネルの設置工事をした際、無許可で斜面を削るなどしていたことが、同県などへの取材で分かった。県は業者に対し文書指導や是正勧告を繰り返しているが、斜面補強などの対策は取られていない。自然エネルギーの利用促進が災害リスクを高める事態になり、県は設備の撤去命令なども検討している。
(略)
業者は毎日新聞の取材に「危険のある区域とは知っていたが、開発に制限があるという認識がなかった。斜面の掘削は、任せていた工事業者が勝手に削ってしまった。善処するつもりだが、めどは立っていない」と話した。
(毎日新聞 2015/09/06 稲生陽)


豪雨に見舞われた仙台市太白区羽黒台で11日午後、住宅地の斜面に設置してあったソーラーパネルが道路上に崩れ落ちた。
(2015/09/11 共同通信社)


太陽光発電や風力発電が日本の国土、電力事業システムの中でどれだけ有効かという検証がされていないまま、無茶な補助金をつけて優遇、推進されていること自体が間違っているというのは以前から指摘してきたことだが、それ以前の問題として、「ソーラーパネルは建築物ではないので設置に特別な許可はいらない」などという法の未整備を早急に改めなければならない。
除染事業もそうだが、合理性を追求しないままに巨額の税金や公共料金を注ぎ込み、無理に進めた結果、国土が破壊され、住民が苦しむような政策が多すぎる。

利権どろどろの悪代官的政治と、勉強不足による正義感ぶったおっちょこちょい政治、性格は違っても、理不尽で不幸な結果をもたらすことは同じだ。

もうひとつの重大な問題──テレビが必要な映像を流さなかったこと

なぜ逃げない人があんなに多かったのか?

今回の洪水浸水被害報道で、忘れてはいけない問題がある。
それは「浸水域の拡大はゆっくり進行した」ということ。
すでにまとめたように、若宮戸地区ソーラーパネル設置場所で最初の越水が起きたのは10日の早朝6時頃。
上三坂地区で堤防が決壊したのは午後12時50分頃。
司令塔となるべき常総市役所(上のマップのさらに下=南に位置している)までが浸水したのは10日午後10時過ぎから。
つまり、最初の越水(早朝6時)から、市役所浸水(夜10時過ぎ)までは17時間かかっている。
堤防決壊の午後1時頃からでも9時間。
その間、鬼怒川から流れ込んだ水は毎時1kmくらいのゆっくりしたスピードで広がっていった。3.11の東北沿岸での津波被害のときとは比べものにならないゆっくりした速度なわけで、まだ浸水していない地区の住民が避難する時間は十分にあった。

それなのに、堤防決壊から何時間も経って、あるいは翌日になってから浸水によって孤立した家に閉じ込められた人が続出した。
避難指示がしっかり伝わっていなかったことはもちろん問題だが、住民の多くはテレビで浸水被害の映像を見ても「小貝川の氾濫のときもここまでは来なかったから大丈夫」と、安心していたのがいちばんの原因だ。

逃げ遅れて浸水家屋に孤立した人たちの一部(少なくない)は家でテレビを見ていたわけで、もし各局が堤防決壊現場付近でのスリリングな救出劇の映像に終始することなく、上空からの映像を逐一流して「今ここまで来ています」「まだまだ浸水域が広がっています」と伝えていれば、さすがに気がついて避難を始めるなり、重要なものを二階に持ち上げるなりといった対応をしていたはずだ。

早川由起夫氏らの重大な指摘 「なぜテレビは浸水か所前線を映さないのか?」

このことを指摘していたのは、原発爆発のときの放射能汚染マップ作成で有名になった早川由起夫教授(群馬大学、専門は地質学)。
ツイッターでこう指摘している。
早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-12 17:10:46
津波の前進速度の1/10以下だ。ゆっくりすぎて報道ヘリからの撮影対象としては魅力が足りなかった。空中から見ても、前進してるのがわからなかったのだろう。どの報道ヘリもそこにカメラを向けることなく、破堤箇所からあふれ出す水と自衛隊ヘリによる吊り上げ救出に集中した。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-12 17:13:40
NHKは災害対策基本法が定める指定公共機関なのだから、吊り上げ救出場面の報道は民放に任せて、洪水の先端がいまどこにあるかをヘリから捜して遅延なく国民に知らせる責務があったのではないか。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-12 17:15:14
吊り上げ救出場面を報道しても、だれも助からない。だれの財産も救われない。洪水の先端を報道すれば、多額の財産が水没から守られた(はずだ)。
早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-13 06:54:42
10日14時から15時、どのテレビ局の報道ヘリも次の二つの観点にカメラを向けなかった。
・若宮戸から越流してアピタ石下店が浸水している、
・堤防が決壊した三坂から流入して前進を続ける洪水の先端がいまどこにあるか、

吊り上げ救出場面を全局そろって生中継している場合ではなかった。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-13 06:57:41
ヘリに乗ったすべての局のカメラマンと記者が、素人だったわけだ。たとえば、NHKのスタジオで解説した二人はこの種の災害のプロだった。的確な解説をしていた。彼らがヘリにカメラを向けるべき先を積極的にアドバイスしたらよかった。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-13 07:10:10
自衛隊ヘリによる吊り上げ救出場面を延々と生中継したあのときのテレビ局(在京キー局全局)は災害報道をしたのではなく、視聴率稼ぎの娯楽放送に熱中していた。恥ずべきことだ。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-13 07:19:46
10日15時、洪水フロントは決壊地点から4キロにあって時速1キロで南下していた。5時間後には9キロ地点の常総市役所に届く計算だった(午前に発表された破堤シミュレーション通り)。さて、5時間で何ができたか。何人がそこから脱出できたか。研究されねばならない。

NHKは多少は引きの映像も入れていたようだが、やはり救出劇映像は民放に任せて、しっかり「警報役」を果たすべきだった。

昨今のNHKの劣化ぶりは極めて深刻だ。
「安倍テレビ」と揶揄される政府御用メディアぶりはもちろんだが、こうした災害報道や各種ドキュメンタリー、科学番組でも、以前のような「さすがNHK」と思わせる作りができていない。
今回の災害はなぜ起きたか、これからの課題は……というテーマであったはずの『NHKスペシャル』でも、危機管理、防災研究の第一人者・片田敏孝教授(群馬大学)が重要な話をしている最中に、話を寸断する形で無意味な(まったく中身のない)「現場からの中継」を挟んでいた。
夜になって何も映っていない役場前とか、そんなところに記者が立って「こちらは……」とやってもなんの意味もない。なんのための『Nスペ』なのか。
こういう媚びかたというか、民放並みの「こういう絵作りをしておけ」的な軽さにうんざりさせられる。







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