新電力への契約切り替え率はまだ1%に満たないらしい。
うちでは3月中にいちばん安くなりそうな(年間で1万円くらいは安くなりそうな)新電力事業者と契約を交わした。といってもネットで必要事項を書き込んで送信しただけで、紙の書類などは1枚たりともやりとりしていない。気持ちがいいほど簡単だった。
それにともない、東京電力の関係事業者が電気メーターの取り替え作業にやってきた。送電網は東電のものをそっくりそのまま使うわけで、メーターの交換も当然東電がやる。
さて、ここでヒステリックな反論を十分に予想しつつも、重要なことを書いてしまおう。
東京新聞に、
電力自由化「発電方法示して」声拡大 地方議会、政府内にもという記事が掲載された。
東京都武蔵野市議会は三月二十八日、事業者に電源構成などの開示を義務付けるよう国に求める意見書を全会一致で可決し、安倍晋三首相や林幹雄経産相ら宛てに郵送で提出した。
電源構成は原子力や再生可能エネルギー、火力など各電源からどんな比率で電力調達しているかを示す情報。意見書では「消費者は電気料金の抑制のみを望んでいるわけではなく、より安全で持続可能なエネルギーを望んでいる」と指摘する。
電源構成が分かれば、消費者は「環境を汚染しない再生エネを選びたい」「原子力は嫌だ」「二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭は避けたい」など、自分の考えに合った多様な選択が可能になる。
……これは東京新聞の意見ではない。武蔵野市議会に意見書を提出したという市議会議員の意見だ。
これに類する意見はずいぶん前からネット上でもいっぱい読まされたが、最初にはっきり言おう。そんなことは妄想であり単純な誤解、無理解だ。

上の円グラフは日本の電力がどのように発電・調達されているかの構成比だ。平成23年というのは福島第一原発が爆発した2011年。全国でまだ動いている原発があったから、原発は10%残っている。
それが2014年には原発はゼロ。その分、増えたのはLNG(液化天然ガス)と石炭。火力でも石油は減っている。水力が変わらないのは、全国の発電用ダムは増えていないし、既存の水力発電所はフル稼働しているということだろう。
水力を除く再エネ(太陽光、風力、地熱、バイオマスなど)は1.4%から3.2%に増えているが、これは政府が高額な買い取り価格を約束して、その分を電気料金に上乗せすることを合法化したことが大きい。それでも3.2%にすぎない。
その結果、全国あちこちでメガソーラーやら巨大風車がどんどん建ち、自然破壊や低周波による健康被害が増えたわけだが、日が照らなければ発電しない太陽光発電や、風がいつ吹くか分からないから発電予測すら立たない風力発電が使いものにならないことはさんざん書いてきた通りだ。風のない雨の日や夜間には、風力発電や太陽光発電の発電量はゼロである。こうしたものを増やせば増やすほど、同じ発電能力を持つ火力発電所を別に作らなければいけなくなる。
で、問題の「新電力業者の電源構成」を公開しろという話だが、例えば、自社が売る電力の6割が再生可能エネルギーであるということをPRしている事業者がある。
再エネの比率がそこまで高いということは、言い換えれば、その事業者が自社で発電している電気の総量はわずかであり、多くは提携先である大電力会社(例えば東京電力)に依存しているということを意味している。
つまり、原発の電気を使うのは嫌だから、電気代が高くついても再生可能エネルギーを中心とした事業者と契約するという「意識の高い」人が増えれば増えるほど、その新電力事業者が提携している(原発を抱えている)大電力会社が発電している電気が契約者に回されることになる。
中には、契約した新電力事業者の「電源構成比」通りの電気が自分の家に届くと思い込んでいる人もいる。送電網が今までと同じ(東京電力管内なら東電の送電網)なのだから、そんなことありえないことくらい、ちょっと考えれば分かりそうなものだろうに。
送電網に入る電気はあらゆる発電所から送られてくる電気が混ざっている。どう配分するかは発電所と消費地の距離や天候の変化などによって決まる。
どの事業者と契約しようが、契約者の家に届く電気の発電元は選べない。
だから、
公開するべきなのは、新電力事業者がどれだけの発電実績(能力)を持っているのかというデータだ。トータルの発電能力が小さいのに「うちは再生可能エネルギーで発電しています」などと売り込んでいる業者は、PR材料としてあちこちに(優遇措置で)メガソーラーや大型ウィンドタービンを建てて、
実質はほとんど提携先の大電力会社の電気を転売しているだけということになる。
もっと穿った見方をすれば、そういう業者は最初から本気で発電する気はなく、提携先の大電力会社の経営を黒子のように裏で支える取引をしたいのではないか……。
自社での発電実績が乏しくても「再エネ比率」が高いとPRする事業者を選ぶとこうなる。ちなみに再エネ比率で謳っている数字は「設備容量」だから、実際にはその数分の1しか発電できない。
こういう基本的な構造を理解せず、勘違いしている人が多いのであれば、このまま新電力事業者の契約数が増えないのも、別にいいんじゃないかとさえ思う。自前の発電所をあまり持たず、コンピュータで数字(金)をやりとりして従来の(提携業者の)発電所が作った電気を看板を変えて再販しているだけのような業者が増えていけば、健全な電力事業、電力インフラは望めない。どんどん歪んだ方向に流れていく危険性がある。
現在、日本の電気の約9割は火力発電で賄っている。そのうちの9割近くはLNGと石炭。これは将来、もし日本が原発を使わないという選択をした場合、こういう電源構成でやっていくことを意味する。2014年は原発ゼロだったが、それで困った、危機的状況になったわけではない。であれば、そのやり方をベースにして、あとはいかに効率を上げるか、環境負荷を減らしていくかという努力をすればいい。
ガス火力の効率は技術革新でどんどん上がっている。天然ガスの確認埋蔵量、可能採掘量も増えている。石炭の脱硫技術も日本は世界のトップレベルを誇っている。石油は貴重だからただ燃やしてしまうのは惜しいと思うだろうが、原油を精製すれば必ず一定の割合で出てくる重油は熱源に使う以外あまり使い道がない。
原発を輸出するなどというたわごとを言っているよりも、すでに実績のある火力発電系の技術革新にさらに磨きをかけて世界をリードしていこう、と、堂々と言えばいいではないか。
火力発電を悪者にして、二酸化炭素温暖化説などという全世界的経済詐欺手法のお先棒を担いできた背景には、原発ビジネスをなにがなんでも守るという意図があったことを忘れてはいけない。
原子力ムラの利権族は、反原発運動を原発維持や再生エネルギー詐欺という新たな利権構築に利用することに成功している。