2016/11/28
若い時代をまっすぐに生きる難しさ

第3回日光いろは坂女子駅伝一区 より
いろは坂駅伝一区を見てきた昨日、夜になっていろいろ考えた。
この駅伝のことを、「しょーもない三流イベント」と唾棄する人たちがいる。そういう人は多分、実際に自分の限界まで試して走ったことがない。
何か別のことでもいい。技術の習得のための練習、受験勉強……なんでもいいから、限界に挑むような生き方をしたことがあるのだろうか。
少しでもそういう経験をしていれば、唾棄するようなことは書けないんじゃないかと思う。
歳をとると、自分が好きではないもの、一流とは言えないものなどに対しても、唾棄する前に「しかし、本人には外からは見えない苦労があるのだろうな」とか「様々な障害や制約の中でやっていくしかないのだろうな」「今の立場ではこうするしかないのかな」とか、いろいろ想像してみるようになる。
それは、自分でもそういうことをいっぱい経験してきたからだ。
芸能やスポーツ、芸術の世界では、自分の理想や信念だけではどうにもならないことがいっぱいある。認められるためには、運だけでなく、外からの金や組織の力がどうしても必要になる。
そういうものを選びながら、ときには嫌なこともしなければいけないし、矛盾を抱えながら行動することもある。
オリンピックのメダリストは全員東京オリンピック2020に諸手を挙げて賛成しているのだろうか。中には「そんなに金をかけなければならないなら、どこか他の国でやってくれたほうがいい」と思っている人もいるかもしれない。でも、自分が大金が舞う場所で自己実現をしてきたことを思うと、口が裂けても言えないのかもしれない。
東大の陸上部(正式には陸上運動部というらしい)の女子部員は、去年まで10人しかいなかったらしい。それも跳躍や短距離、中距離など全種目あわせての人数だから、とうてい駅伝チームなど組めない。
日光いろは坂駅伝の参加基準はほとんどないといっていいくらい緩く、「メンバーが足りなければ卒業生入れてもいいですよ」というノリだったので、第1回、第2回ではOGも入れてチームを組んだ。
結果は最下位。
まあ、当然といえば当然だろう。それでも参加するという姿勢がまずすごいな、と思う。
中学高校までは演劇部の裏方で完全に文化部人間。大学に入ってから陸上を始め、種目は800m、1500mの中距離。そんな選手が最下位争いをしながら懸命に5km弱を走る姿を見て心打たれる。
これはなんなんだろうなあ……と、改めて考えてしまったわけだ。
自分が若いときは、最初に邪念があった。
音楽を一生やりたい、それならプロになるしかない、プロになっても有名になって売れなければ意味がない、そのためには売れる曲を創らなければいけない、そのためには……と、若いときの自分は、「邪念」を原動力にして努力していた。
だから、今思えば奇跡のようなすばらしい仲間と出会えても、そのありがたさが分からず、自分が成功するためには……ということをまっ先に考えていた。
その結果、ちゃんと成功するならいいのだが、いざとなると自尊心や余計な正義感が顔を出して、頭を下げなければならないところで突っ張り、ぐっと我慢して屈辱に耐えなければならないところで我慢しきれなくなった。自分で決めなければいけないときに、自分で決められず、墓穴を掘ることもあった。
今ならそういう反省があるから、あのときに戻れたら失敗しないと思うけれど、時代はもう変わってしまったし、若いときでしかできないことがある。
そういう自分の20代に比べて、いろは坂駅伝を走るランナーたちの姿には邪念が感じられない。
有名になりたいとか成功したいとかではなく、自分に勝ちたい、自分がこの世に生を受けた証を極限まで見つめたい、という純粋な意志というか……そういうエネルギーを素直に表に出している。
その姿を見て、自分も、もっと純粋にやっていれば、結果として人を感動させられたのかもしれない、と思った。
「いい曲を創りたい」という気持ちが圧倒的に大きく、第一にあって、それを世に出すためにはここは我慢して……とかならよかったのだが、世に出るためには売れる曲を作らなくては……だったのではないか……という反省。
気持ちと工夫(知恵)の順番が逆だったというか……。
それを修整するのに何十年もかかって、気づいたら老人になっていた、という人生なんだな。
そんなことを考えたので、まあ、いろは坂駅伝見に行ってよかったかな。
来年も見てみたいな。
初心に戻って……幻のデビュー曲を↑ (Clickで再生)
今日のオマケ リオ五輪の4x100mリレーはやはりすごかった

IAAF.ORG より 3位のRacers Track Clubはジャマイカとアンティグア&バブーダの選手の混成チーム
駅伝のことを書いていて、あちこちの陸上関連サイトを見ているうちに、リオ五輪の男子4x100mリレー、日本チームがどれだけものすごいことをしでかしたか、改めて理解を深めてしまった。
一言でいえば
「陸上の歴史上、4X100mリレーで日本チームより速く走った国別チームはジャマイカとアメリカしかいない」のだ。
イギリスもドイツもカナダもロシアもフランスもアフリカ諸国も中国も、リオ五輪決勝での日本チームの記録37秒60より速く走ったことがない。つまり、
日本は国の代表チームとしては「歴代3位」なのだ。
これってすごいことだ。
ちなみに、日本でのそれまでの記録は、2007年9月の大阪世界陸上で出した38秒03(塚原直貴、末續慎吾、高平慎士、朝原宣治)で、この記録はその後9年間破られなかった。9年かけて、一気に0秒43縮めたわけだ。
38秒03という記録だと、世界歴代20位にも入れなくて、上には、ドイツ、ソ連(1987年の記録)、アンティグア&バブーダ、キューバ、ナイジェリア、ブラジル、中国、フランス、イギリス、カナダ、トリニダードトバゴがいた。
これら10か国以上の国の記録を一気にあの4人が抜いて世界3位にまで上げたわけだ。

IAAF.ORG より
それにしても不思議なのは、そんな日本チームの誰一人10秒を切った選手がいないということ。それどころか、100mの日本記録は未だに1970年のバンコクアジア大会準決勝で伊東浩司が出した10.00。これは世界歴代記録だと118位(2016年11月現在)。言い換えれば、今まで10秒を切った選手は117人もいる。
その117人の中に日本人はひとりもいない。それでいて4人がリレーすると歴代3位の国になるのだから、すごいよなあ。
この快挙、リオ五輪では準決勝の生中継をするテレビ局が1つもなかったんだよな。まったくなんて扱いだろう。
準決勝でアジア記録を塗り替えて、後になってから急に騒いでさ。ったく……。
ついでに、アンティグア&バブーダってどういう国なのかと調べたら、国土面積が443㎢、人口は約8000人で、カリブ海にある3つの島からなる小国。
443㎢がどのくらいの面積かというと、東日本大震災で津波により水没した総面積がちょうど443㎢だと発表されている。
人口8000人というのはどのくらいかというと、福島第一原発が爆発する直前の大熊町の人口が1万1511人、双葉町が6,932人で、合計すると18443人。第一原発がまたがるこの2町だけでアンティグア&バブーダの2倍以上の人口があったわけだ。ちなみに大熊町も双葉町も現在の人口はゼロ人である。
そういう国が2015年、世界陸上北京大会において、男子4×100mリレー決勝に初めて進出して6位入賞した。そのときの記録が38.01秒。国別だと世界歴代18位。これもすごいねえ。

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