お正月特番でお馴染みの「芸能人格付けチェック」。先日、秋の特番として音楽特集3時間スペシャルをやっていた。
料理の味やワインなんていうのは、視聴者は参加することができないから、試される芸能人のリアクションを見ているだけだが、音楽なら参加できる。いい企画だと思う。
テレビのスピーカーから出てくる音だから音色の聴き分けには限界があるけど、演奏における音程のよしあしとかリズムの狂い、表現力の深みなんかはよくわかる。
ストラディバリウスと十数万円の入門者用楽器を聴き比べるのはすでに定番になっているが、今回は太鼓演奏グループや声楽家、タップダンサー、尺八やハーモニカ、三味線といった楽器も登場して面白かった。
で、ここで「事件」が起きた。
世界的な声楽家と呼ばれるプロ(A)と桐朋学園大学大学院の学生(B)を聴き比べるというテストで、全員が大学院生のほうがうまいとしたのだ。
我が家でも「Aはないよな。音程が悪すぎる」と、僕も助手さんも疑うことなくBだと思っていた。
Bも音程は狂うのだが(オペラ、特にソプラノ歌手は音程においては狂っていてもいいみたいな世界なのかな、と思う。今まで音程がいいと思ったプロ歌手はほとんどいないから)、Aほどではない。
ところが結果はプロがA。
この件は
ネット上でも話題になった。「プロが可哀想」「桐朋学園大学院の特待生をアマとして出すのはどうか」といった「世界的名声を得ているプロ歌手」に同情的な声が多かったようだが、なぜか誰も音程のことには触れていない。
Aの音程の狂いは、最初の何秒かは歌っている曲が『Summer Time』であることも分からないほどだった。
ポルタメントっぽく音程をずらして移行する唱法においても、心地よさよりも違和感のほうが大きく感じてしまう。だから、これは素人特有の独りよがりな歌い方だな、と思ったのだった。
しかし、現段階で彼女は「世界的名声を得ているプロ歌手」とされていて、まだ名を知られていない大学院生よりも商品価値、金を稼ぐ能力が圧倒的にあることは議論の余地がないのだ。
その「格付け」をしたもの、価値を決めたもの──根拠や尺度とはなんだったのだろうか。