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のぼみ~日記2018


2018/10/10

何によって「格付け」されるのか?


お正月特番でお馴染みの「芸能人格付けチェック」。先日、秋の特番として音楽特集3時間スペシャルをやっていた。
料理の味やワインなんていうのは、視聴者は参加することができないから、試される芸能人のリアクションを見ているだけだが、音楽なら参加できる。いい企画だと思う。
テレビのスピーカーから出てくる音だから音色の聴き分けには限界があるけど、演奏における音程のよしあしとかリズムの狂い、表現力の深みなんかはよくわかる。

ストラディバリウスと十数万円の入門者用楽器を聴き比べるのはすでに定番になっているが、今回は太鼓演奏グループや声楽家、タップダンサー、尺八やハーモニカ、三味線といった楽器も登場して面白かった。

で、ここで「事件」が起きた。
世界的な声楽家と呼ばれるプロ(A)と桐朋学園大学大学院の学生(B)を聴き比べるというテストで、全員が大学院生のほうがうまいとしたのだ。
我が家でも「Aはないよな。音程が悪すぎる」と、僕も助手さんも疑うことなくBだと思っていた。
Bも音程は狂うのだが(オペラ、特にソプラノ歌手は音程においては狂っていてもいいみたいな世界なのかな、と思う。今まで音程がいいと思ったプロ歌手はほとんどいないから)、Aほどではない。
ところが結果はプロがA。

この件はネット上でも話題になった。「プロが可哀想」「桐朋学園大学院の特待生をアマとして出すのはどうか」といった「世界的名声を得ているプロ歌手」に同情的な声が多かったようだが、なぜか誰も音程のことには触れていない。
Aの音程の狂いは、最初の何秒かは歌っている曲が『Summer Time』であることも分からないほどだった。
ポルタメントっぽく音程をずらして移行する唱法においても、心地よさよりも違和感のほうが大きく感じてしまう。だから、これは素人特有の独りよがりな歌い方だな、と思ったのだった。

しかし、現段階で彼女は「世界的名声を得ているプロ歌手」とされていて、まだ名を知られていない大学院生よりも商品価値、金を稼ぐ能力が圧倒的にあることは議論の余地がないのだ。
その「格付け」をしたもの、価値を決めたもの──根拠や尺度とはなんだったのだろうか。

Aを選んだ人は誰一人いなかった



こういう結果は番組史上初めてらしい
声楽ほど極端ではなかったが、和太鼓合奏も、プロ集団と高校生グループの実力差がはっきりしなかった。
というか、僕自身はむしろ高校生グループの演奏のほうが難しいことをやっているし、迫力もあったと感じた。
プログループは、小太鼓のリズムが微妙に狂っているのが気になってしまい、楽しく聴けなかった。
高校生グループもリズムが完璧だとはいえないが、プログループに比べて、むしろリズムの乱れは気にならなかった。
もちろん、商業的にはプログループのほうが扱いやすいに違いない。他ジャンルアーティストと共演したり、歌手のバックにあつらえて絵作りしたりといった仕事を数こなしている分、現場での安心感はあるだろう。プロとして金をとるというのはそういうことだ。
しかし、太鼓合奏が生み出す迫力や抜けのよい空気感といった根本的な感動においては、むしろ高校生グループのほうがあったように思う。あまり違和感なく、気持ちよく聴けたし、少なくともプロとアマの「圧倒的な差」は感じなかった。
(……なんて書くと、必ず「あの違いが分からないような素人が偉そうなことを言うな」的なコメントが殺到することは承知の上でこう書いている。)

定番の数十億円クラスの「銘器」と入門者用楽器の違いにしても、その価格差に見合う違いではない。この程度なら、腕の違いのほうがはるかに大きな差になる。ストラドだガルネリだという神話というか、おまじないのようなものに対する価値、いや、価格の大きさが与えている価値といったほうがいいだろう。
機会があればぜひ、入門者用楽器を弾く一流演奏者(例えば千住真理子)と高額な楽器を弾くアマチュア(ヴァイオリン教室の教師あたり)との聴き比べもやってほしい。
吹奏楽器にしても、一流の演奏者は竹輪を吹いても100万円以上のリコーダーを吹く素人より感動させられるだろう。

さらには、職人的プロがデジタル音源をMIDIで打ち込んで再生した音と、生演奏を生録音したものを再生した音の聴き比べも面白い。
その際は、譜面を再現する演奏ではなく、作品も込みで、アドリブ演奏的な要素も含めた演奏を比べて「どちらが感動したか」を比べてほしい。
音楽が生み出す感動とか演奏とは何か、というようなことを考えさせられる結果になりそうな気がする。

これも、高校生グループのうまさが光った

世の中で「格付け」されているものは、何をもって格付けされているのか、改めて考えさせられる内容ではあった。
一流と言われているから一流、テレビに出ているから一流、○○賞を受賞しているから一流、売れているから一流、○億円稼ぐから一流……。
自分の審美眼、センスに基づいて判断している人は、とても少ないのかもしれない。

タヌパックブックス



↑エントロピー環境論を子どもから大人まで伝えたいという気持ちで書いた、これは私の「遺言」です。

新しいエンターテインメントの形…… 森水学園第三分校

森水学園第三分校


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