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のぼみ~日記2019

2019/03/27

棚倉・浅川を再調査(11)岡部市三郎の狛犬


↑長い石段を登っていくと……上で迎えてくれるのが市三郎の狛犬↓

さて、日もだいぶ傾いてきた。すぐそばの白山比咩神社の狛犬を撮りに行く。
ここには非常にユニークな狛犬がいて、やはり岡部市三郎の作。和平の作ではないと知ってガッカリする人もいるが、僕はこの狛犬は大好きだ。とてもていねいに彫り込まれていて、技術的には寅吉、和平に勝るとも劣らないものだと評価している。もっと注目されていい作品だ。
後ろ脚を蹴り上げたポーズは明らかに寅吉・和平の飛翔獅子から影響を受けているが、市三郎らしく細かな部分までていねいに彫り上げていて、顔も独特の味がある。大きな作品をあまり残していない市三郎にとっては代表作となっている。
寅吉・和平の飛翔獅子は、最初に「天翔るような獅子を彫ってみたい」という欲求から始まり、蹴り上げた後ろ脚をどう支えるかと思案した結果、獅子本体と同じ石から後ろ脚を支える「台のようなもの」を彫り出すという工夫を生み出したと思うのだが、市三郎はそれを最初から江戸の獅子山と同じように岩山に見立てているように思える。
これはおそらく、寅吉は「天翔るポーズ」の実現をめざして試行錯誤した結果のものだったのに対して、市三郎は最初から寅吉や和平の飛翔獅子を見ているので、それを真似るという発想だったから、下のものは「台座の役割をする岩山」という解釈になったのだろう。

直接の影響としては、寅吉の飛翔獅子よりもむしろ、これより2年前に石都都古和気神社に建立された和平の親子獅子が大きいように見える。
子獅子がじゃれつく姿や、蹴り上げた後ろ脚が生物学的?にはありえないような格好(ある意味いい加減なデザイン処理)であることからも、寅吉よりも和平の親子獅子に近いのだ。
しかし、そうしたモデルがあって、真似たとしても、仕上げの素晴らしさや市三郎ならではの顔の表情は素晴らしい。

吽像。台座部分全体が岩山風に仕上げられており、寅吉・和平よりも江戸の「獅子山」風だ。
吽像の後ろ脚の支え部分には子獅子を絡ませており、市三郎としては「後ろ脚の支えを目立たなくする」ためには花だろうが子獅子だろうが利用してみる……という発想だったように思える。



↑吽像  ↓阿像 顔が縦長なのは寅吉の鹿島神社の狛犬をモデルにしているかもしれないが、表情が優しくなるので、和平のようなほんわかしたテイストが加わる。結果、市三郎独自の世界が醸し出されている。





真横から見ると、阿像の下は雲に見えなくもない。多分、そういう意図はないとは思うが……。

口の中の自然さ、鬣や尾の彫りの深さや柔らかさ、ボリューム感は、寅吉・和平にひけを取らない素晴らしい出来だ。


一瞬足にも見えるが、牡丹の花なんだろうなあ……。

口の中の彫り込みがすごい。これは真似しようにも並みの石工では到底無理。


花に鬣が巻き付くという、こういう表現がなんとも面白い。


この後ろ脚の格好は生物学的にはありえないものだろう。関節はどこ? で、これはまさに和平の飛翔獅子の後ろ脚そのものなのだ。そんなところまで真似してしまったのか?

後ろ脚を支えている部分に牡丹の花を絡ませて目立たなく?させている。


子獅子がじゃれつく姿は和平の石都都古和気神社の親子獅子を真似たのだろう。これは和平のほうがうまい。



「石工 岡部市三郎」の隣に「生田目佐伊助」の名があるが、なぜかその上が削り取られている。ここにどんな文字があったのか? 「石工」と彫られていたのであれば、なぜ消したのか? おそらく生田目佐伊助は台座部分を担当しているのだと思うのだが……。



市三郎は職人気質の一徹な性格の持ち主だった。一つの仕事を頼まれるとどこまでも行き、神社仏閣に建立されている唐獅子や仏像を見て、絵図に描き表し、納得の上で仕事に取り組んだ。
栃木県の日光まで行って石像をたびたび見てきたと伝えられる。
石材も木材同様切りだしてから1年ないし1年半くらいおいて乾燥させてからでないと、ひびが入ったり欠けたりするので、市三郎は特に石をよく乾燥させてから使ったという。
(「浅川町史」 第3巻第14章より)

とにかく真面目な人だったのだろう。もっともっと注目されていい石工さんだと思う。



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