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のぼみ~日記 2020

2020/01/28

いろいろ重なって……

28日未明。助手さんは「朝起きて、車を出せるかしら」と心配しているけれど、多分平気でしょ。日光線が止まらない限りは問題なし……であってほしい。積もらないといいな……と思いながら窓の外を見ていた

義母がお世話になっていた小さな施設が経営破綻して「1月いっぱいで閉鎖する」と告げられたのが昨年11月半ば。あまりに突然のことで、呆然。
閉鎖を知ったその日のうちに周辺の特養3か所に突撃して、面談、見学、申し込みをしたが、当然、そんなに急に入れる特養などあるはずもなく、その後も、さらに特養1か所、サ高住1か所、老健1か所を回った。
老健とサ高住では、面談が2時間以上にわたって、今どきの施設の裏事情なども赤裸々に語ってもらった。おかげで勉強にはなったが、義母の引っ越し先は決まらないまま、時間が流れた。
その間、ケアマネさん、担当訪問医、現施設の施設長、引っ越し先候補の施設スタッフだけでなく、全然関係のないフェイスブック友達のケアマネさん、サ高住の現役介護スタッフなどにも施設の紹介をしてもらったりして大変お世話になった。
特に、今どきのサ高住とはどういうものかが分かったのは大きかった。年を越す前に、特養がダメでも、今と同じような環境のサ高住には入れるという目途が付き、すごく気持ちが楽になった。そのサ高住は、施設長が淡々と、かつ気持ちを込めて合理的に仕事をこなしていくタイプのかたで、義母の面接にまで足を運んでくださった。
そこにお世話になろうかとほぼ気持ちがかたまりかけていたところ、年末に、当初、第1希望としていた特養が受け入れ準備を進めてくれているという情報が入り、状況が急転。最後、ぎりぎりで31日に転居できそうということに決まった。その特養の相談員さんが大活躍で、僕らが直接会ったことがないのにもかかわらず、こちらの窮状をしっかり理解して、緊急発動的に動いてくださった結果である。
その契約が28日。助手さんは雛人形の搬出でどうしても横浜に行かなければならないというので、あたしが全権代行で契約に。
そのあたしは腰を痛めてしまい、なんとか歩けるものの、悪化させるとまずい。
しかも、27日夜から28日午前中にかけて雪の予報。場合によっては大雪警報が出そうだという。
10cm以下の積雪なら、「なんちゃって四駆」のラパンでもなんとか行けるだろうと踏んでいたが、結局、全然積もらず、朝には雨に変わり、道は積雪ゼロに。よかったよかった。

特養の契約は2時間半にわたった。
重要事項説明書には「拘束はしない」と明記してあり、それについても詳しい説明を受けた。
病院では認知症患者はすぐに拘束されてしまうところが多いし、特養や介護付き老人ホームでも認知症入居者は拘束やむなしと考えている施設は多いので、自ら「拘束はしない」宣言をしているこの特養は素晴らしい。簡単なことではないのだ。
どんな施設でも、24時間つきっきりで見ていることなどできるはずがない。特に夜間は、スタッフ一人で10人~30人を担当するわけで、ベッドから落ちたり、勝手に動き回って骨折したりしてもどうしようもない。
義母は自力では立ちあがったり歩いたりできないが、それでもベッドから這い出そうとするから、骨折事故を防ぐには、拘束するか、リスペリドン(リスパダール)などの薬でおとなしくさせるしかない。しかし、その手の薬が効くと別人のように生気がなくなり、人間らしい生活ができなくなる。何も対処しなければ骨折の危険が著しく増大し、骨折したら最後、病院送りになり、ベッドに縛り付けられたまま苦しみながら死ぬという悲惨な最期が待っている。それだけはなんとしても避けたい。
どういう対応でリスクを下げるか、医師も施設スタッフも家族も悩む。

親父のときは薬を使っても夜間に起き上がって大腿骨骨折してしまった。「100歳でも手術させる」という整形外科医を振り切って、担当医、施設長、ケアマネさんらを交えて、手術を受けさせるかどうかで悩みに悩んだ。本人は急に正気に戻ったようになり「絶対に手術はしない」と言い張るし、骨折する前から相当全身の機能が弱っていて、いよいよ終末期だなあと覚悟していた時期の骨折だったので、判断はとても難しかった。
主治医とも相談の末、一度は受けさせないと決めた後で、ケアマネさんの「それでは介護スタッフがあまりにも大変すぎる」という意見にハッとさせられ、短期決戦で手術を受けさせた。
「手術なんていちばん楽じゃん。寝ている間に終わるんだから」と親父に言いきかせて手術室へ送り出したが、手術執刀直前、手術室内で執刀医と麻酔医の意見が合わず「やはり全身麻酔は危険ではないか」という判断になったそうで、親父は意識があるまま人工骨頭を埋め込む手術を受けた。意識がある中で脚を切開され、ガリガリと骨に穴をあけられてチタン合金の重たい人工骨頭を埋め込まれる手術を受けたわけだ。どれだけ怖ろしかっただろうか。
手術そのものは成功してすぐに退院。きれいに傷口もふさがったものの、たった2泊の入院では拘束され、褥瘡や原因不明の傷を作り、精神もかなり錯乱したまま戻ってきた。そして、その後はしっかりとコミュニケーションを取ることもできず、翌々月には施設の自室で息を引き取った。

義母は骨粗鬆症だし、背骨も大きく曲がっていて普通に座位を保つのも難しいので、骨折したら親父のようには手術に耐えられないだろう。そもそも、大腿骨骨折ではなく、いきなり骨盤骨折になるかもしれない。骨盤骨折となれば、その時点でもう回復は望めず、苦しい中で病院内での死を待つだけになる。それはいちばん避けるべき事態だから、そのリスクを下げるための薬の服用はやむをえないと思っている。ただ、適量がどのくらいかは難しい。多いと効きすぎて廃人のような生活になるし(今はすでにそれに近い)、少なければ骨折……。
そのへんの問題を、担当看護師さんには念押しして伝えた。

今度の特養専属の介護支援専門員(ケアマネ)は男性で、とても柔和で誠実そうなかた。相談員の女性のスーパーウーマンぶりといい、当初、想像していた以上に素晴らしい人たちが揃っていて、本当に幸運だ。

特に相談員の女性は素晴らしい、というか、すごい。「衣類や持ち物には全部名前を書いてくださいね。書いてなければ私が書いておきますので大丈夫です」とか「歯医者さんへの通院が必要になったりした場合は、車椅子での通院送り迎えはご家族様には無理でしょうから、私が代わりにやっています」などとサラリと言う。それって、どちらも「相談員」の職務を超えたサービスだろう。親父が最初にお世話になった横浜の特養では、相談員から電話がかかってきて「衣類に名前を書き込みに来てください」と言われた。日光から横浜へ、衣類に名前を書くために往復……。
その話をしたら「ええ~!」と驚いていたけれど、他の施設ではそういうのが普通だろう。細かな雑用は介護士の仕事ではないし、ケアマネや事務員、相談員の仕事でもないから家族がしなければならない。遠方にいるから、という理由も通用しない。
施設のよしあしは設備や経営母体の大きさなどではない。あくまでもそこで働いている「人」で決まる。

実は、今回、4か所の特養、1か所の老健、1か所のサ高住(デイサービス施設併設)の合計6か所のうち、最初に施設長や相談員との面談ができなかったのはこの特養だけだった。
最初に飛び込みで訪れたのが土曜日で、相談員もケアマネも施設長も不在で、事務の女性と少し話をしてこちらの状況を説明し、施設内を簡単に見せてもらっただけだった。
それでも、その日に急いで回った3か所の特養の中でいちばんいい印象を受けたのは、事務の女性や介護士たちの表情が穏やかで明るく、取り繕った親切ではなく、自然にそう動いているという雰囲気を感じ取れたからだ。
その印象は間違っていなかったということが分かって、嬉しくなった。

義母が入る部屋。ベッドをどっち向きに置きましょうか……と、相談員さんと一緒にシミュレーション。ベッドを動かしたらナースコールのブザーが引っかかって外れてしまい、介護士が飛んできてしまった。「ごめんなさいね。コードが抜けちゃったの」「あらあら」。そんなやりとりも自然体で、ますます好印象


↑拘束せずに、ベッドから落ちないように……ということで、今の施設スタッフとも事前に十分に打ち合わせをした結果、ベッドには柵をつけ、その柵の間に手を突っ込んでしまわないようにカバーも作ってすでに取り付けてあった。あとは今の施設からマットレスを持ち込んで、夜はベッドの横に敷いて、万一の落下のときのクッションにする作戦。
事前に相談員さんが介護士、ユニットリーダー、看護師、ケアマネを連れて今の施設に義母の面接に来ており、その際、今の施設のスタッフとも長時間引き継ぎ会議もしている。そこまでしっかりやってくれる特養って存在するんだなと、驚いた。
それらをすべて仕切って(引っ張って)いるのがスーパーウーマン相談員の女性で、彼女がいなければ今回の「緊急措置」に近いようなギリギリセーフ引っ越しは到底実現できなかった。
どういう経歴の人なのか興味がわいたので訊いてみたら、「最初は障害者スポーツ関連の仕事をしたかったんですが、やっぱりおばあちゃんたちが好きなので、この仕事を選びました」とのこと。この特養では開設からずっと働いていて、それ以前もこの業界で仕事をしていたというベテラン。
すごいとしか言いようがない。本当に感謝。

夜、助手さんが横浜から戻ってきた。雨の火曜日が幸いしてか、デパ地下で高級な弁当が「1000円引き」で売っていたとのこと。じゃあ、元の値段はいくらやねん、ってなるけど、2000円らしい。もう1個は1500円を500円引きだって。750円引きにはしてくれないんだ。

↑1000円引きだった2000円の弁当  ↓500円引きだった1500円の弁当

雨も小降りになり、これ以上天気が崩れることもなさそう。なんとか特養契約が終わり、義母の引っ越し問題が解決して、ホッとした1日だった。

介護施設は「人」で選べ 親を安心して預けられる施設とは?


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