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のぼみ~日記 2021

2021/06/17

大田原方面へ(10)熊野神社(大田原市練貫)の狛犬


さて、次の狛犬がいる場所はかなり離れている。Googleマップで確認すると、約18kmもあった。
そこまで外れている場所にわざわざ行こうと思ったのは、グーグーさん情報で、そこに小さいながら飛翔獅子らしきものがいるらしいと知ったからだ。
しかも神社なのか観音堂なのかも分からない、名もない場所らしい。分かるだろうかと不安を抱きながらも車を走らせた。

なんとかたどり着けた。道路沿いの公園のようなだだっ広い土地の中にある。それらしき狛犬もいる。
Googleマップでは「熊野神社」と表示されるのだが、社額のようなものはなかった。




問題の狛犬がこれ。吽像は頭を低くして身構えている。阿像は後ろ脚を大きく蹴り上げている飛翔獅子型。寅吉・和平が彫ったタイプにそっくりだ。
はたしてこれは小松一門と関係のある狛犬なのだろうか?



まっ先に台座を確認した。建立年と石工名はあるのか……。



「明治三年」とある。「庚午」も読めるので明治3(1870)年に間違いない。
驚いた。
というのは、小松一門だとすれば、明治初期は利平が棟梁だった小松家にとって、完全な空白期間だからだ。

慶応2(1866)年、寅吉21歳のとき、利平に認められ、小松家の養子として迎えられた。
しかし、その後、白河~棚倉一帯は戊辰戦争の嵐が吹き荒れ、戊辰戦争が終わった後は村はボロボロになった。全国的に廃仏毀釈も起こり、狛犬どころではない状態が続く。
明治7(1874)年4月8日 寅吉の兄弟子にあたる鈴木鶴吉が亡くなる。
明治9(1876)年10月2日 寅吉に長男亀之助誕生 寅吉はこのとき32歳になっていたが、自分の銘を入れた作品はない。
明治14(1881)年7月13日 石川町沢井に小林和平が生まれ、翌明治15(1882)年2月27日 浅川町滝輪に岡部市三郎が誕生。
明治21(1888)年8月1日 小松利平没(戸籍記録)。83歳。このとき寅吉は44歳、和平はまだ7歳だった。

……つまり、明治3(1870)年といえば、寅吉は20代半ば。石工としてこれから活躍しようとしていた時期だが、仕事がなく、鬱々としていたであろう時期なのだ。師匠の利平は60代半ばで半隠居生活に入っていただろう。
和平は生まれていないし、寅吉もまだ飛翔獅子を彫っていない。
寅吉は師匠である利平が亡くなる明治21(1888)年までは決して自分の名前を彫らなかった。
寅吉の最初の飛翔獅子は、明治25(1892)年11月15日 川原田の川田神社に自ら奉納したもので、このとき寅吉はすでに48歳になっていた。
それより20年以上も前にこの飛翔獅子が彫られていたことになる。
一体誰が彫ったのか?
寅吉は川田神社の飛翔獅子で「布孝」を名乗ってデビューする前にも狛犬を彫っていたが、銘は入れておらず、形も座りポーズのもので作風も定まっていた。
となると、明治3(1870)年のこの狛犬は小松家と無関係の石工が彫ったのだろうか?
あるいは、利平の工房で彫られた銘のない作の一つなのだろうか?

謎は深まるばかりだ。
それにしても、小さいながら、寅吉の飛翔獅子に見られる、蹴り上げた後ろ脚を岩で支える構図、後ろ脚の間や尻の部分に水抜きと重量バランスをとるための空間があけられている手法、蹴り上げた脚の形や顔の雰囲気など、すべてが寅吉・和平の作風に通じるものなのだ。
誰が彫ったにせよ、大変な問題作である。
明治3(1870)年というだけで、ある意味「問題作」なのだ。日本中で廃仏毀釈の嵐が吹き荒れていたとき、戊辰戦争で疲弊しきった北関東~南東北で、こんなデザインの狛犬が彫られていたのである。その事実だけでも驚きだ。


奉納者の名前は並んでいるのだが、石工名はなかった。狭原村は明治22(1889)年に他の8村と一緒に湯津上村に統合され、湯津上村は2005年に黒羽町と共に大田原市に編入された。



蹴り上げた後ろ脚を岩でさりげなく支えている構図は寅吉の飛翔獅子と共通している。



この角度から見ると、ほとんど1本の柱のように見える。
吽像のポーズも実に絶妙で、全体の構図に工夫が見られる。




阿像の顔。






吽像の顔。




走り毛、巻き毛、鬣など、ていねいに彫られている。




この後ろ脚はもう、寅吉・和平の飛翔獅子そのもの。





はるばる脚を伸ばした甲斐があったが、謎が解けずにモヤモヤする。
利平の工房で作られたとすれば、そのときまだ利平は工房の棟梁だったわけで、飛翔獅子のデザインは寅吉よりも前に利平が考案していたことになる。謎の石工・小松利平に、さらなる謎が加わる?
謎のまま浪漫とミステリーとして楽しめばいいのか……いや、真相が知りたい。
奉納時の記録などは残っていないだろうなあ。なにせ150年前だからなあ。


隣の如意輪観音?も銘を見てみたが、だれかの墓らしい。










社殿の鬼板も撮っておく……。

モヤ~っとした気持ちのまま、次へと向かった。

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