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のぼみ~日記 2022

2022/03/06

東京マラソン運営の大醜態

今日は楽しみにしていた東京マラソン。2022年3月にやっているのに「東京マラソン2021」なんだそうだ。2021の延期分が今日で、2022は休止だって。なんだそれ。

昨年、札幌で行われた東京五輪マラソン(札幌も暑かったわけで、IOCはほんとにバカ)で素晴らしい優勝シーンを見せてくれたキプチョゲがスタート直後から圧巻の走り。5kmが14:17、10kmが28:37(5~10kmは14:20)で、10km地点ですでに後続の日本人トップ集団とは1分以上の大差をつけていた。このままいけば世界記録更新か、という期待が膨らんだのだが、10km過ぎでとんでもない事件が起きた。

何が起きたのか?

現場は上野三丁目のY字路。
本来のコースは右側の本道(片側3車線の6車線)をまっすぐ行くだけ。その先に最初の折り返しポイントがある。
しかし、第一中継車は大型車両のため、その先の折り返し地点でのUターンが難しいため、左の右折用側道に入り、折り返し後の反対車線に先回りして待機することになっていた。これはマラソン中継ではよくあることで、中継車は予定通りの走行だった。
ところが、先頭集団を先導していた白バイが、側道に入った中継車の後をついていってしまった
そのため、キプチョゲを含むアフリカ勢第一集団も、当然白バイの後をついていき、コース離脱してしまったのだ。

↑赤が正しいコースだが、先導白バイは2台とも中継車に釣られて青い方向へ進んでしまった

この時点で致命的な大失態なのだが、なんと白バイはこの時点ではまだ自分たちがコースアウトしていることに気づかず、さらに中継車の後をついていく。
中継車は本来の予定通り、次の交差点で右折して、さらに右折し、折り返し点を回ってくる白バイとランナーを待ち受ける手はずなのだが、なんと白バイもランナーも中継車の真後ろにいて、折り返し点とは逆方向に走っている。
ここでようやく向かって右手(進行方向左側)の女性白バイ隊員は気がついて慌ててUターンするが、すでに逆レーンに入ってしまっている。

↑画面右の外(フレーム外)に女性隊員がいて、ここでようやく気がつく
ランナーたちも異変に気づき、慌てて止まり、Uターンして本来のコースを折り返し点方向へ走り出した。

奥に小さく写っているのが気づいてUターンする女性隊員。手前の男性隊員はここまで来てようやく後ろで起きている異変に気づく。この時点で第一集団は2台の白バイに前後を挟まれるという異常な状態に

右側担当の白バイ男性隊員はここでもまだ気づかず、少し逆走したところでようやく気がついて、反対車線に回り込み、ランナーたちの後を追いかけた↓。



後方の青いランニングシャツの選手(エチオピアのシュラ・キタタ選手=ロンドンマラソンではキプチョゲを破って優勝している)は先頭集団から約10秒遅れていたので正しいコースを走ってきた。先頭集団のコースミスのおかげで10秒の遅れを取り戻して一気に追いつけた形

第一集団以外のランナーは白バイとはかなり離れていて正しいコースを進んだ。2番手を約10秒遅れで一人で走っていたキタタ選手は、目の前で第一集団が間違ったコースに入っていくのを見ていたが、その差は60mくらいだったはずで、上野三丁目の三叉路で、その60mの間に係員の誰かが飛び出してキタタ選手を正しいコースに導いたのではないだろうか。
キタタ選手は相当混乱したことだろう。自分ひとりが白バイや第一集団とは別のコースに進んでいいのだろうかと迷いながらも広い道をそのまままっすぐ進んだ。その際、多少足を止めた可能性もある。
その後で、左の細い道に入っていった中継車、白バイ、第一集団が目の前を横切っていったかと思ったら、反対車線に入って逆走し始める。
ここで再び「え!?」となったはずだ。どうなってるんだと思う間もなく、今度は白バイが前後で分かれてしまい、突然Uターンして自分が走っている車線のほうに向かって突進してきて、目の前で合流。
キタタ選手の精神的動揺も相当なものだったはずだ。(キタタ選手は最終的には2:06:12で、4位の鈴木健吾選手に次ぐ5位だった)

ここまでを図にまとめると↓こうなる。
赤い線が正しいコース。青い線は中継車のコース(これも予定通りで正しい)。緑の線が第一集団が白バイに誤誘導されて走らされたコース


ここは第一中継車が一時的にコース離脱するポイントだったこともあって、テレビ中継ではこの場面は映し出されず、日本人トップがいる第二集団の映像だけをずっと流していた。
本来なら折り返し点の正面に据えた定点カメラが向こうからやってくるランナーをとらえて折り返していく姿を映すはずが、ランナーが来ないばかりか、違う道を進んでいて、折り返しのはるか手前で逆コースに入っていくのが見えたと思う。中継スタッフはパニック状態になったのではないか。
スタジオのアナウンサーと解説の高橋尚子はまったく分からずに「曲がったときに給水に釣られて反対車線に入ってしまったんでしょうか」みたいなことを言っていたが、全然違う。そもそも「曲がる」場所などないし、その前からコースアウトしていたのだ。
中継車に乗っていたアナウンサーも、事態を飲み込んだときはあまりのことにほとんど絶句して「コースを……間違えてますね……」と言ったまま黙り込んでしまった。
キプチョゲという絶対王者を迎え、世界記録が十分狙えるペースで進んでいた中でのコースアウト。このままではキプチョゲを始め、キプルト、トラ、ゲレメウら、2時間2分、3分台のベスト記録を持つ世界のトップ選手たちがみんな失格になってしまう。どうすればいいのか……と、スタッフはみんな頭真っ白になったのではないか。

結局このシーンはVTR挿入で一瞬流れただけで、二度と映し出されなかった。コースアウトしたこともきちんと説明されぬままレースが終わった。
ほとんどの人は、白バイが左折するところを間違えて右折したための事故だと思い込んだが、事態ははるかに深刻だったのだ。

レース後の新聞記事などでも、「2台の白バイのうち1台がコースを間違えた」とか「約10秒のロス」などという間違った内容が錯綜していた。
しかし実際には、
……ということなのだ。

事故が起きた現場の上空からの写真(Googleマップより)

深刻なのは、先頭集団は単にタイムをロスしただけでなく「コースアウトした地点まで戻っておらず、本来のコースのうち走っていない区間が生じた」ということだ。

↑こうだから……



↑この緑の点線の区間を走っていない



この赤い点線で囲んだあたりにしっかりと誘導員が立っていて指示を出していたら起きなかった事故かもしれない


選手に与えたダメージは10秒ロスどころではない!

先頭集団がコースを外れたのは上野三丁目三叉路から次の交差点までの約73m。本来のコースを走っていれば、コースは広い道で直線であり、単に73mをまっすぐ走ればいいだけだった。曲がる箇所は1か所もない↓。

しかし左の道を迂回させられたことで、約50m長く走らされた。さらには2度の右折と突然の制止とUターン。しかも自分たちのミスではなく、信頼しきっている先導白バイのミス。これによる負荷と精神的動揺の影響は計り知れない。
新聞記事などでは「約10秒のロス」と言っているが、10秒のロスだけで済むはずがない。
先頭集団はスタートから5kmまでを14:17、5kmから10kmまでを14:20というハイペースで走っていた。しかし、10kmから15kmはこのミス誘導のおかげで14:39かかっている。これだけのことがあっても14:39というのが驚きだが、あの誘導ミスがなければ14:20くらいのペースを維持していただろう。
15km以降は5kmごとに
(14:37) (14:33) (14:25) (14:39) (14:33) ( 6:37)
というペースなのだが、本来のコースを走っていれば14:20前後のペースを長く維持できただろう。そうなれば当然、後半のモチベーションも全然違っていたし、気持ちを乱したペースメーカーが早々とギブアップして離脱することもなかったのではないか。世界記録が出ていた可能性は極めて高い。


中継スタッフやスイッチャーはこの事故にいつ気づいたのか?


ここでさらに疑問を抱いたのは、先導白バイが上野三丁目で間違えて左の側道に入ってしまったことを、周囲の人たちは瞬時に気づかなかったのだろうか、ということだ。
この時点ですでに、先頭集団に対して鈴木健吾らがいる第二集団は1分6秒くらい遅れていた。5kmを14分30秒で計算するとおよそ380mくらい。
相当離れているが、広い道でずっとまっすぐなので、前方はるかかなたに豆粒くらいの第一集団や中継車が見えていたはずだ。
しかし、これだけ離れていると、第一集団がミス誘導されたことは分からなかっただろう。

↑事故が起きたときの第一集団と第二集団の距離



↑そのときの第一集団と第二集団の位置関係

↑第二集団から前方の第一集団を見た風景(いずれもGoogleマップから)
しかし、第一集団の前後を走る中継車や審判車などは分かったはずだ。もちろん、沿道の人たちや誘導員も。
第一中継車のカメラはコースを離脱した後も映像はセンターに送り続けていたはずで、その前に第二集団の映像に切り替えていた放送センターのスイッチャー、ディレクターらも瞬時に気づいたはず。
いちばん驚いたのは第一中継車を運転していたドライバーではないだろうか。先導白バイがまっすぐに進まず、コース離脱した中継車の後にのこのこついてきてしまったのだから。
中継車は予定通りにコースを離脱して反対車線に先回りしただけなのだが、もっと早めに速度を上げて白バイとの距離をとっていたら、後続の白バイも中継車が離脱することを思い出し、ついていかなかったかもしれない。

現場で応援していた人がスマホで撮った動画をYouTubeにUPしていた。↓

この人たちは↓この赤丸部分あたりでランナーを待ち受けていたのだが、
本来来るはずの方向(赤い点線矢印)からではなく、突然横から飛び出してきて反対車線を逆走し始めた(水色の矢印)わけで、さぞ驚いたことだろう。誘導員のおじさんも「おい! おい!」と大声で叫んでいる。

しつこいようだが、↑こういうこと。赤い点線が本来のコース

問題は、単なるロスではなく、コースではない所を走ってしまっている。しかもコースアウトした場所に戻っていない、という点だ。
関係者は瞬時にこのことを理解しただろうか。
このまま走らせてゴールしても失格になってしまうのではないか、という思いが頭をよぎったはずだ。
そういう大問題だったからこそ、放送でもあのシーンは二度と流さず、その夜や翌日の他局のニュースやワイドショーでも取り上げるところはなかった。
なるべく問題を大きくしたくない。下手をすると、世界で最も名高く大規模な6つのマラソン大会「アボット・ワールドマラソンメジャーズ(AbbottWMM)」(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティマラソン)から外されてしまうかもしれない。

中継車が折り返し点や狭い道の手間で一旦コースを離脱して先回りすることはよくある。だから、関係者、特に先導の白バイ隊員はそのポイントだけはしっかり覚えておかなければならない。そういう超基本的なことを守っていなかったことは責められて当然だ。
皮肉なことに、この事故の直後に、中継放送では能天気に「本日の先導白バイ隊員をご紹介します。向かって左側……」なんて、ミスした隊員ふたりを大映しにして名前やプロフィールを読み上げてしまった。急遽やめればいいものを。
女性隊員のほうは泣きそうな顔をしていた。
しかしまあ、ミスは誰にでもある。白バイ隊員だけ(ヽヽ)が集中砲火を浴びるのはちょっと気の毒だ。運営全体が緩かったということだ。

スタートのピストル音の連打(フライングかと思う)といい、ゴール後にキプチョゲ選手のインタビューで長時間無言のままカメラの前に立たせる無礼といい、とにかく不手際や思いやりのなさが目立つ恥ずかしい大会だった。
その分、キプチョゲ選手の紳士ぶりが目立った。選手としてもすごいけれど、人間性も素晴らしい。
キプチョゲ選手の紳士ぶり、スポーツマンシップについては、去年の五輪マラソンのときの日記にも書いていた。⇒これ
あのゴールシーンを思い出して、改めて「王者」のすごさを実感させられた。

キプチョゲすごい!
これだけは間違いない。 日本のメディアは、記録だ、メダルだ、日本人選手が~、と騒ぐばかりで、スポーツやアスリートたちのいちばんの魅力を伝えようとしない。その点こそ猛省すべきだ。

           

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