連載コラムの担当編集者から久々に直電。「いただいた原稿に差別用語が入っているという指摘があり……」と言う。
なんだろうと思ったら、「炭坑夫」だって。
どこがいけないの? って訊き返しながら「炭坑夫 差別」で検索したら、
⇒ここ とか、
⇒ここ
とか、
⇒ここがヒットした。
炭坑夫はよろしくないので、「炭坑作業員」か「坑内員」に直すべきらしい。校正では「坑内員」に直されていた。
しかし、そんな言葉聞いたことがない。口の中が痛くなりそう。
で、炭坑夫のどこがいけないのかが、やっぱり分からない。「炭鉱」がいけないの? それとも「夫」のほう?
リストを見ていると、どうやら「夫」とつく言葉がことごとくダメらしい。
工夫 ⇒ 作業員
鉱夫 ⇒ 炭鉱労働者。鉱山労働者。坑内員。鉱員
坑夫 ⇒ 坑内作業員。坑員
漁夫 ⇒ 漁船員
線路工夫 ⇒ 保線区員
郵便夫 ⇒ 郵便集配員
……。
これって、「看護婦さん」はいけなくて、男でも女でも「看護師」にしましょうとか、「スチュワーデス」はいけなくて「キャビンアテンダント」にしましょう、っていうのと同列なのか?
つまり、「炭坑夫」って呼ぶと、炭鉱で働いている女性に失礼だってことなのだろうか?
「漁夫の利」は「漁船員の利」って言わないといけないのか?
「芸人」や「坊主」、「板前」もダメなんだとさ。寿司屋の板前は「寿司料理店の調理師」になるらしい。
他にも、「不治の病」は「重病」に、「足を洗う」もダメらしい。
そもそもこういうリスト、誰が作ったの?
言葉刈りが議論の的になるのは今に始まったことじゃない。
筒井康隆氏が断筆宣言をしたのは1993年。そのとき、この事件に触発されて僕が書いた短編を思い出した。
『目の不自由なヘビ』という。
その後、長編小説『ポチの耳・私の髪』という作品に作中作として入れた。(
ブクログで読めるので、興味のある方は⇒こちらでどうぞ)
あれから20年以上経ったが、今はもう当時のような論争をする元気もない国になってしまったかのようだ。
フェイスブックでこの話題を出したら、聖光の同期で国語教師のSくんがしっかりしたコメントを書き込んでくれたので、引用。
もともと「差別用語」とか「差別語」とか決まった「語彙」があるわけではありません。ある表現が「この言い方は差別的である」と判断されるのは、それはその時代や社会のあり方を反映しているということです。ですから、数十年前の文学作品などに、今では普通使わない(使えない)表現があったりするのは、ごくあたりまえのことです。それが理由で国語の教科書から消えた作品はいろいろありますね。
まさにそういうことだ。
語彙の使用を禁じれば片付く話ではない。そこから「歴史」や「思想」「哲学」を学び取ることが大切なのだが、「言葉刈り」にはそうした姿勢がまったくなく、単に刈り取るだけ。
デジタル化社会となった現代では、ブログサイト管理会社などがキーワードで検閲していて、書いた文章がUPできない、なんでだろ……みたいなことが起きている。
文章の内容に関係なく、語彙を機械が拾って一律に管理しようとする社会。恐ろしいことだ。
だからこそ、単純に「これは『差別語』かどうか?」というところで議論しないようにしていかないと。「語彙」を一律管理しようとするのは、その延長上にニーズがあるから。自分としては、絶対にそこに加担したくない(腐っても国語教師・・・?なので(笑))。
……だよねえ。
恩師・井津先生に共に学んだクラスメイトが、今こうして「呑み込まれない」生き方をしていると知って嬉しくなった。
しかしまあ、歳取ると、いちいち腹も立たず、面倒くさいなあ……って思うだけになる。
今回も、「坑内員」なんて、文章を書いて金もらっている僕でさえ聞いたことない単語だから、「じゃ、直前に『炭鉱』って書いているから、作業員、ってことで……それなら分かるだろうから」と、さっさと片づけた。
ところで、『目の不自由なヘビ』をWEB上にUPしてあったかどうかを確認するためにGoogleで検索したら、こんな読めない表示が出た↑
なんだこれ? とアクセスしたら、
文藝ネットの中の1ページだった。
発起人として佐伯一麦さん、森下一仁さんを誘って文藝ネットを立ち上げたのは2000年3月。紙媒体以外での文芸作品の発信可能性を探る……ということで始めたのだが、わずか15年前なのに、今このサイトを見ると隔世の感がある。
当時はまだ電子ブックもなくて、文芸作品を紙の本以外で発信することには作家も出版社も大きな危惧を感じていた。簡単にコピーできてしまうから、盗作や海賊本がどんどん出てくるだろう、という危惧だ。
また、文芸作品はやはり縦書きで読んでもらいたいというこだわりもあった。
そこで、擬似的に縦書きにするソフトなんてものも出てきて、そういうものを使って作ったのがこのページ。
縦書きで表示すると、「 」は90度回転したままになって変なことになる。
「
こ
ん
に
ち
は
。
」
↑こんな感じ。
そこで、一部の記号類などを別の似た記号に変換するというようなことをしている。
苦肉の策というやつだが、なんのことはない、当時のInternet Explorerではまともに見えていたのだが、Chromeで見るとこのザマだ。
発足の挨拶というページも同様。