私は音楽の世界のことはほとんど知りませんので、何も言えませんが、素人なりにきみの音楽に東洋的な静謐さを感じました。(略)
きみの「四畳半の音楽活動」は、すばらしい意味を持つように思われます。
専制政治家のように大衆にはたらきかけることを、私はあまり評価していません。それはおそらく空しいことであり、時に害悪でさえありましょう。
私は「一人に向かって」をモットーに生きていくことにしています。その方が結局は普遍性を獲得すると思います。こうして、きみ個人に向かって長い手紙を書いているのもそうだし、学年全体の生徒に話すときでも「一人に向かって」話すつもりで話すようにしています。「九十九匹の羊を置いて一匹の羊を探せ」というキリストの逆説をこのように応用しているわけです。
経済的な価値観では数の多いことを価値あることとしますが、数が少ないほど価値のある世界というものがあることを私は信じています。成績不振の少数の生徒、クラスでいじめられがちな一人の生徒、精神分裂症の一人の教え子、文学好きな一人の少年、特別養護老人ホームの一人の老人、障害者同士結婚した一組の若い夫婦、といった人々に向かってじかに話しかけます。
このじかのつき合いほど重たいものはありませんが、嘘のはいり込むことの少ない世界ですから、私には向いているように思います。
先日も、生徒たちと一緒に作った手づくりの紙芝居をもって特別養護老人ホームへ行ってきました。
心身障害者が多く、彼らの半数ほどはほとんど人間的な反応を示しません。
拍手喝采を受けないのですから、ある生徒は、やりがいのなさを感じたかもしれません。しかし、大切なことは喝采の物理的な音量ではないのです。数字の多さ以外の何かが尊いのです。その何かをじかに感じればよいのです。それを言葉で規定する必要はありません。
きみの音楽活動が私のこんな考え方に幾分でも接点を持ちうるものでしたら、陰ながら声援を送りたいと思います。この考え方は、きみが有名になることを妨げるものでは決してありません。少数の人に向かって語りかけた結果が、多くの人に認められることになったというのでしたら、そんなめでたいことはありません。
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『裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす』(講談社 単行本352ページ) ニュースでは語られないフクシマの真実を、原発25kmの自宅からの目で収集・発信。驚愕の事実、メディアが語ろうとしない現実的提言が満載。 第1章 「いちエフ」では実際に何が起きていたのか? 第2章 国も住民も認めたくない放射能汚染の現実 第3章 「フクシマ丸裸作戦」が始まった 第4章 「奇跡の村」川内村の人間模様 第5章 裸のフクシマ かなり長いあとがき 『マリアの父親』と鐸木三郎兵衛 ■今すぐご注文できます ![]() ⇒立ち読み版はこちら |
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