鐸木能子・作「少彦名命」の修復が先日完了して、無事、所有者様の手に戻った。
お袋が新工芸会員になって毎年日展に作品を出すようになった後、彫刻的な人形に疑問を感じ、当初習っていた伝統工芸展系の作品に少し回帰していたときの作品。アート性としては最高傑作の一つだと思う。
その後、お袋は雛人形に集中するようになり、木彫木目込み衣装人形の技法で十二単の雛人形を作ったり、現代風の室町雛を作ったりといった挑戦を続けていった。
今回の修復依頼はあまりにも難しくて、助手さんは最初は「無理だわ」と断るつもりでいたのを、姉弟子(お袋の最初のお弟子さん)に「供養だと思ってやりなさい」と説得されたらしくて、引き受けた。
古事記によると、大国主大神(オオクニヌシ)が国作りをしていたある日、海を眺めていると小さな舟に乗った小さな神様がやってきた。
これがスクナヒコナで、世界に3番目に生まれてきた神産巣日神(カムムスビ)という神様の息子とのこと。
乗ってきた舟は「天乃羅摩船(アメノカガミノフネ)」と呼ばれ、ガガイモの実でできていた。
そんな話をお袋から聞かされたような気もするのだが、ちゃんと聞いていなかったのでよく覚えていない。
引っ張っているのがガガイモの蔓なのか、その後、草に弾かれて
常世国へと渡り去ったということから、そのときの草の蔓のつもりなのかよく分からない。
実がついているから、多分、ガガイモのつもりなのだろう。
葉っぱがついていたような気もするのだが、それが紛失したのか、最初からなかったのかも分からない。
修復の最大の問題は、ガガイモ(?)の蔓に入れた細い針金が完全に腐食して錆が出てしまったのをどうするかということだった。
錆が滲出し、両手は完全に駄目になってしまったので作り直し。
蔓も全部作り直し。実の部分もかなりダメージを受けているので修復した上で彩色やり直し。
さらには顔にも小さな凹みができてしまっているので、できることなら修復したいが、目のすぐそばだし、同じ色で胡粉を塗れるかが問題。
すわりが悪いので実の底部分に粘土を足して安定させたいが、そこには作者名と印があるので、それにかからない程度にほんの少しだけ足すしかない。
……とまあ、かなり難しい作業が重なった。
蔓の芯材はもう針金は使えないので、腐食しないアルミやステンレスの針金を使うことも考えられたが、いろいろ調べて「形状保持材テクノロート」という新世代樹脂素材を発注して取り寄せた。
それを巻くものも、造花などに使う専用のものを取り寄せ。
顔の疵も胡粉で埋めて、両手は作り直し。
実の部分も亀裂や凹みを埋め込んでから彩色し直し。
……その他、細かい調整を重ねて完成。

手の部分は↑↓こうだったが、

↓

↑↓すべて作り直した


↑顔の疵も……
↑きれいに直った

↑草の実の損傷なども……

↑↓きれいに修復


↑すわりが悪いのでこの部分に少し粘土を足して調整

無事修復完了



……とまあ、偉そうに書いてるけど、もちろん作業は全部助手さんがやったのよね。
あたしはこんな細かくていねいな仕事は無理。何をやっても最後はがさつに終わる。
「プッ! そんなことみんな知ってるって」